――小川議員はどのような選挙活動を展開しているのでしょうか。
大島:車座集会や国政報告会を頻繁に実施しています。選挙の時はそればかりですね。いわゆる庶民の人たちを集めて今の政治が彼らにどのように見えているかをよく聞いています。それから、駅前などで朝の辻立ち演説も熱心に行っていますね。
――選挙期間中以外も地元で政策を説いているのですね。
大島:平日は永田町の議員会館で寝泊まりして、金曜の夜に高松に帰って土日に地元で活動して月曜日には東京に帰ります。選挙期間もそれ以外もずっと同じです。
有権者が何を感じているのかを重点的に聞きたいという気持ちがあるようです。自分から発信するよりも聞くことに重きを置いていますね。小川議員と話すのは年配の人が多いです。
©ネツゲン
――地元に帰るのは選挙期間中の時だけという政治家もいます。
大島:地元に頻繁に帰るか帰らないかは、選挙に苦労する人としない人の差とも言えると思います。小川議員の場合、毎回選挙が苦しいので自分の選挙区の地元の活動を密にせざるを得ないんですね。例えば、安倍総理であれば下関に一回も行かなくても選挙で勝てますよね。持って生まれたものの差、いわゆる地盤・看板・カバンの差は大きいです。
ある意味、地元で活動することに時間を割かれているので、党内で人間関係を築くなどの活動が十分にできないということもあるのかもしれません。
――ライバルの自民党の平井議員と小川議員の選挙戦の闘い方の違いなどについて、どのようなことを取材で感じましたか。
大島:2017年の選挙の時に平井事務所に行ったのですが、全部安倍総理のポスターが貼られていました。つまり平井陣営は、平井議員ではなく自民党に入れてください、ということなんですね。平井議員個人の資質がどうこうということではないと思います。もちろん、当選には地元の優良企業である四国新聞の影響力も少なからずあるでしょう。
一方、小川議員の事務所は全て小川議員のポスターが貼られています。小川議員に投票している人は、小川議員の政策や人柄に惹かれているんですね。2017年の選挙の取材で感じたのは希望の党ではなく小川議員を支持しているということでした。
――小川議員は5回当選をしていますが、選挙区で当選したのは2009年の1回のみで後はすべて比例区での復活当選です。小川議員の支持層はどのような人たちなのでしょうか。
大島:民進党在籍時代の組織票の一つに、労働組合があると思います。後は小川議員個人を応援する不動票ですね。選挙区では負けている回数の方が多いのですが、選挙戦を取材していて小川議員の真っ直ぐな人柄は少しずつ浸透していると思いました。惜敗率は選挙のたびに少しずつ上昇しています。2017年の選挙では、平井議員との得票数の差はわずか2183票でした。
――小川議員のようなタイプは若い世代の支持を集めるような気もしますが、若年層に対するアピールはできているのでしょうか。
大島:そもそも若い人達は投票に行かない方が多いという印象ですね。全国的にもそうですが、彼らの投票率は高くないです。
――高齢者は小川議員をどのように評価していますか。
大島:あんなに青臭くては政治家としてやっていけない、と年配の人ほど辛口です。希望の党に行った時点でダメだという人もいます。やはり2017年の選挙では筋を通して無所属で立候補すべきだったと。
大島新監督
40代の人たちは小川議員の迷いに共感する人もいるようです。会社組織に身を置く自分とダブるのかもしれません。
――地方では高齢者層を中心に、地元企業、農業関係者など「自民党議員にお世話になった」「自民党議員がいたから今がある」という意識のある人が未だに多いという印象があります。本作にも、小川議員の母親が電話を掛けて投票を依頼した時に「自民党以外に入れたことがない」という有権者と話すシーンがありますが、そういう風潮は香川県にもあるのでしょうか。
大島:不景気もあってそういう雰囲気は残っていますね。例えば隣の選挙区の玉木雄一郎議員は、小川議員と同じ高松高校から東大法学部、財務省の官僚という経歴で当時の民進党から出馬して選挙区で4回当選していますが、とにかく選挙に強い。
野党でありながら保守層にアピールする選挙演説をしているんですね。彼自身が大平元首相の遠戚関係にあるということもあり「自分は香川県出身の大平正芳の遺志を引き継いでいる。今の自民党は大平時代の自民党と違うので野党にいる」というニュアンスの言い方をしています。
確かに、大平元総理は、玉木議員とは財務省出身で共通点があり、何より香川県出身で内閣総理大臣になった言わば郷土の英雄です。「大平正芳の遺志を引き継ぐ」という表現に保守層は心打たれるものがあるのかもしれません。
――劇中には電話掛けをしたり選挙演説にも一緒に行ったりと、家族総出で選挙を応援する姿も描かれます。お嬢さんたちは「政治家は嫌だ。政治家の妻はもっと嫌だ」とおっしゃっていますが、ご家族はどのように感じているのでしょうか。
大島:ご両親は複雑な思いのようです。元々政治家になることについてはそれほど賛成ではなかったのですが「本人がやりたければ応援する」というスタンスで支えてきました。今では、政治の世界にとって不要な人間であれば本人が浮かばれないという気持ちもあるようです。一方で、人の上に立つのは非常に難しいと分かりながらも「日本を良くできるのはあの子しかおらん」と信じているようですね。
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妻の明子さんはご自分で常々「私は普通の女」と言っているように、決して政治意識の高い方ではありません。いわゆる円満な家庭を望んでいたようですね。しかし、今では「本人がやりたいなら支えるしかない。やるしかない」という覚悟のようです。地元の大学に進学後、幼稚園の先生をしていた明子さんは、東大に進学した小川議員との遠距離恋愛を経て、大学卒業後ほどなくして結婚しました。ずっと一緒に歩んで来た夫には最後までついていくということではないでしょうか。
お嬢さん二人も選挙戦を支えていますが、お父さんのように政治家になりたいとは思っていないです。やはり苦労を見て育っているからかもしれません。
――小川議員の「世の中をよくしたい」という気持ちは揺るがないのでしょうか。
大島:小川議員は「日本は政治家はロクなもんじゃないけれど、官僚が立派だから成り立っている」と常々父親が口にしていたことがきっかけで自治省の官僚になっています。そして、官僚組織の限界を感じて政治家になった。その気持ちはずっと変わっていないのではないでしょうか。
※後半では大島監督に2017年の選挙戦や取材を通して感じた政治家に必要な資質などについてお話を聞きます。
<取材・文/熊野雅恵>
くまのまさえ ライター、クリエイターズサポート行政書士法務事務所・代表行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、自主映画の宣伝や書籍の企画にも関わる。