更に、ボルソナロは攻撃を緩めることなく、次の標的を
下院議長ロドリゴ・マイアに向けた。
ボルソナロを罷免させようとする嘆願書をすべて却下させるためである。今のところ罷免できるだけの十分なる議席は確保されていない。次に
最高裁のアレクサンドゥレ・モラエス判事への批判だ。というのは、連邦警察長官にボルソナロが信頼しているアレクサンドゥレ・ラマゲンの任命を却下したからであった。
最高裁への批判は大統領府安全保障相アウグスト・エレノ将軍からも上がった。最高裁が捜査の対象物件として大統領の携帯電話の引渡しを要請するのは国家の安定を損なうのに計り知れないものがあると指摘したのである。それに共鳴するかのように国防相フェルナンド・アゼベド将軍もそれにに同意を表明した。
更に、退役した89人の軍人も先月24日、ボルソナロに味方して、最高裁のこの要請を批判。(参照:「
El Pais」)
ボルソナロの閣僚22人の中で軍人が9人もいるというのは脅威である。ボルソナロ自身も昨年11月に左翼の勢いが活発になった時に軍事政権を望んでいることを表明したことがあった。(参照:「
HispanTV」)
ブラジルは20年余り軍事政権が続いたことがある。その後、1985年から民主政権が誕生して、その10年後にブラジルの発展の基盤を築いたフェルナンド・エンリケ・カルドゾ元大統領だった。彼は「今のところ軍人が政権に就くことを望んでいるとは思わない」と指摘している。(参照:「
El Pais」)
一方、ルラ元大統領はそれとは見解を異にして「(軍人)クーデター遂行者は既に我々のバルコニーに一つ足を突っ込んでいる。それに反応がない場合は、我々の扉を取り除くだろう」と述べている。(参照:「
HispanTV」)
仮にボルソナロを罷免しても、現副大統領のハミルトン・モウランは将軍だ。彼が大統領に昇格すれば自ずと軍事政権の成立を容易にさせてしまう。
カルドゾ元大統領が指摘しているように、ボルソナロは大統領のポスト遂行できるだけの資格はない。だから、大統領のポストを担い切れない時が来るはずである。それが2022年の大統領選挙の前までに来れば、モウラン将軍が大統領に就任して必然的に軍事政権の樹立への道が開かれることになる。
ブラジルは非常に危険な方向に向かっている。
<文/白石和幸>