中央政府による国安法の制定方針を受けて今、香港では連日のように各地で抗議活動が頻発している。
6月4日には当局の禁止を振り切って、市民が天安門事件の追悼集会を開催した。今後も「103万人デモ1周年」や「200万人デモ1周年」など節目の行事を強行することが予想される。だが、その抗議活動は危険と隣り合わせだ。今の香港では無辜の市民や報道関係者にまで、いわれのない暴力が振るわれているのだ。
「コロナ対策として香港政府は『9人以上の集会』を禁止していますが、それを盾に
警察が抗議活動とは無関係な市民まで拘束・逮捕している。メディアに対する暴力もひどい。5月27日には360人もの市民が逮捕されましたが、その日、私は深夜まで旺角警察署前を張っていました。すると、23時すぎに暗がりから大勢の警察官が急に現れ、集まっていた記者たちを警棒で殴りつけたのです。私は腕にアザができる程度で済みましたが、別の記者は額から出血。ゴーグルを無理やり外され、至近距離でペッパースプレーを目に吹きかけられた記者もいた。今や警察はメディアにも敵意むき出しです。昨年よりも警察の暴力性が高まっている」(香港人ジャーナリスト)
香港在住の日本人タレントであるRie氏も次のように話す。
「友人の子供は4~5人で遊んでいただけで、『9人以上で集まるな!』と“反則切符”を切られました。近くにいた別の子供たちとセットにされて、取り締まられたのです。罰金は一人2000香港ドル(約2万8000円)。連日100人単位で抗議者や無関係の市民まで逮捕されていますが、実はそれ以外にも無実の罪で罰金を科せられている市民が大勢いる。完全な嫌がらせです」
そのため、抗議者は神経をすり減らしながら抗議を続けている。
「国安法が施行されたら過去にさかのぼって逮捕されるリスクがあるため、掲示板やメッセージアプリでのやり取りを消すようと呼びかける人もいる。私はずっと抗議集会のスケジュールなどをSNSで発信していましたが、不当逮捕される人を増やしてしまわないよう情報発信の頻度や表現を抑えています」(Rie氏)
こうした香港の変化は、実は日本と無関係ではない。福島氏は「香港を最前線に米中冷戦が新たなステージに入る」と話すのだ。
「トランプ氏の言葉どおり、香港への特別措置が撤廃されれば、香港へのドル資金の流入がストップし、’97年のアジア通貨危機の再来もありうる。それ以前に、天安門事件の悲劇が繰り返される危険性もある……」
前出の香港人ジャーナリストは「今がドン底だと思っていたら、底が見えなくなった」と漏らす。一方で、トランプ氏の香港への特別措置解除を歓迎している。「死なばもろともです」と言うのだ。経済破綻を招いてでも、香港の自由を守りとおす―――香港人の覚悟と現実を中国も知るときだ。
国安法に対して世界中の議員が反対の意思を表明しつつある。国内では山田宏・山尾志桜里両議員の呼びかけで100人以上が署名。こうした動きに、周庭氏は「私たちの抗議活動で香港政府の決定を阻止することはできても、全人代は止められない。けど、世界の皆さんが声を挙げたら止められる可能性がある」と謝意を表した。
<取材・文/週刊SPA!編集部 写真/AP/アフロ>