遅すぎセコすぎ煩雑すぎの「安倍コロナ経済対策」では、沈みゆく日本経済を救えない

個人消費活性化のために必要なこと

 IMF(国際通貨基金)は今年の世界全体の経済成長の予測をマイナス3%と予測している。12年前の2008年に世界経済を震撼させたリーマンショックの時でさえ、マイナス0.1%でしかなかったのだ。この75年の第二次世界大戦後の世界が経験したことのないマイナス成長となるわけで、世界経済は今後数年に渡って影響の残る深刻な景気後退に見舞われる可能性が強い。そして、その筆頭の国が日本経済になってしまう。  過去20年以上、日本は景気低迷の時に常に輸出ドライブで回復を計ってきた。米国や中国など好調な経済に引っ張りあげてもらい景気浮揚を実現してきた。かつては、不景気から日本を回復させたものに個人消費もあった。しかし、1992年にバブル経済が破綻した後からは、日本は個人消費による回復力が弱くなってしまい自律的な景気回復が困難な国になってしまった。世界全体が落ち込む中、何としても日本自身で立ち上がることが必要だ。政府による財政出動だけに頼るのでは限界がある。今一度、落ち込んでしまった個人消費に日本経済復興の一翼を担ってもらう必要があるのだ。それは、モノを買う能力のある人には積極的に財布を開いてモノやサービスを買ってもらうことだ。  高齢化社会の進んでしまった日本でもっとも購買力のあるのはシニアの富裕層である。平成29年の内閣府の発表によると、世帯主が60歳以上の家庭で4000万円以上の貯蓄を持ってる世帯は18.2%、2000万円以上持ってる世帯は22.9%となってる。つまり、41.1%の世帯が2000万円以上の貯蓄がある。  2019年の6月に年金2000万円問題が沸き起こったのを覚えておられるだろうか? 2000万円も資産を作るのは無理だと多くの現役世代が将来の不安を抱えていた時に、60歳以上の4割以上の人は、2000万円ならある、と通帳を確認していたのである。さらに、この世代は持ち家率も84%と高い(65歳以上の世帯)。そのため、経済的な暮らし向きについて心配ないと64.6%の人が思ってる。ただし、最近はシニアの貧困も大きな社会問題になっているのも事実だ。格差の問題はすでに所得が限られているシニアの層はより深刻である。しかし、カネを持ってるのは、確実にここにいるのである。  日本経済を救うために必要な個人消費での経済の下支えをこの人たちに担ってもらいたい。どうしたら、使ってもらえるか? この連載では、すでに何回か述べたが、私は現在税率10%の消費税の一時的な凍結を提案したい。さらに、前倒しで使えば使うほど得するように、日常生活で使うような、食品や日用品(高級品を除く)、医療費や光熱費、教育関連などはそのまま凍結しつつも、それ以外の不要不急の商品に対する消費税は毎年2%上げていくと言う形を取ればいい。贅沢品は10%でなく20%くらいまで消費税をあげてしまえばいい。こうして、お金を持ってる人に、遺産として残すよりも使って人生を楽しんでもらうのだ。

一事が万事遅すぎて、本気を感じない安倍政権の経済支援策

 もちろん、消費税を下げるだけでは国民を救うことができない。これから顕在化する失業者にどう対応するかが大切だ。アメリカの失業者は4月に14.7%となった。コロナウィルス の影響がすでに出ていた3月で4.4%だったから戦後最悪だと言われてもおかしくない。日本はどうだろう。3月の完全失業率は2.5%で人数は167万人だ。それが失業者数は300万人超えの可能性が出てきている。失業率は6%まで上がるとされている。働くことを諦めてしまった隠れ失業者も含めると失業率は12%前後にまで跳ね上がる可能性がある。この緊急事態に十分な経済支援が必要なのは言うまでもない。  特に今回は、飲食業や観光業、エンタメなどへの打撃が強い。非正規で働く人の割合が多く、通常の収入も決して高くない人を直撃しているのだ。このまま放置すれば、街にはホームレスが溢れる。大学生は学費が払えなくなり退学者が続出するだろう。  兎にも角にも、安倍政権のコロナ対策は、遅い、申請が複雑、対象者を絞り込みすぎ、金額が少なすぎるのだ。  例えば、フリーランスや個人事業主を一時的でも救済するはずの「持続化給付金」について、安倍首相は5月21日に「最大200万円の持続化給付金も、何よりもスピードを重視し、入金開始から10日余りで、40万件を超える中小企業・小規模事業者の皆様に対して5000億円お届けをしております」と胸を張ったが、1月に国内感染者が出て経済に影響が出始めたのに申込開始は5月に入ってから。さらにすでに40万件支給したというが、申し込み者は90万件を超えている。 50万件払えていないことに配慮がない。  政府からの振込が月末を越せば、決済に間に合わなく、倒産する会社も出てくるのは必須だ。遅すぎるのである。さらに持続化給付金は、ネットでの申請に限ってしまったので、ネット環境のない個人事業主や小規模事業者などは、どうやって申し込むこともできないのだ。実は、申請サポートセンターが開設されており(ただし、驚くほど待たされるのが現状)そこで申し込むこともできるのだが、そのPRをネットで行う。まるで、外国人向けの初級日本語講習の生徒募集を日本国内で漢字だらけのポスターで宣伝するようなものである。
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学生への支援金も実際は一部だけ
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