コロナ禍で家族が勤務を外されたトラック運転手の告発!不当な差別・搾取は許されない

さらに、給与補償は一切なし

 悪質なのは、命じられたこの出勤禁止期間を会社側が「年次有給休暇」として処理していたことだ。会社からの給与補償は一切ない。  長距離トラックドライバーをするA氏は、自宅になかなか帰れず子育てはほとんどB氏に頼っている。学校行事もB氏が毎度有給休暇を使って参加しているため、今回の「有給強制消化」が今後の生活に大きな影響を及ぼすことは間違いない。  家族に長距離トラックドライバーがいるという理由で出勤させず、さらにその休みを強制的に有給扱いにし、所得補償も与えない。  「自分はこんな仕事だから何言われても仕方ないんですけど、周りがいろいろと菌扱いされるのは納得しないです」  A氏の文体は、落ち着きながらも怒りに満ちていた。  内容を確認・把握後、筆者は同本社の広報にコンタクトを取り、質問状を提出。期限内に文書での回答を求めた。質問の主な内容は以下の5点だ。   1.この件に対する事実確認 2.事実確認で判明した社内の現状 3.出社禁止に至った経緯 4.この判断・状況に対する企業としての見解 5.今後会社としての対応方法  今回、どの工場の案件なのかは質問状の中でも伏せた。内部通報者の特定を避けること、そして、全工場・事業所で同じような境遇にいる労働者を一斉に洗い出してほしかったという思いからだ。  

告発があったことを知ったメーカーの対応は……

 すると質問状送付から数日後、現場にある動きがあった。工場からB氏に「職場に復帰するように」という連絡が入ったのだ。本社から工場に、何かしらの指示があったと思われる。  当日、B氏は工場へ出勤。しかし仕事はほとんど与えられず、なぜか勤務時間から休憩まで1人隔離されていたという。    悶々としながら迎えた回答書提出期限の当日、本社から同書が返ってきた。内容はこうだ。 1.全工場・事業所の調査により、2工場計8名の取り扱いに該当する事実があった 2.特別警戒都道府県内の工場・施設では、有給休暇の消化日数に加算されない「特別休暇」を付与 していたが、同エリア外の工場・施設の一部では、感染発生を抑えることを徹底しようとするあまり、独自の判断で家族が同エリアに移動している場合、出勤自粛を呼び掛けていた 3.該当する従業員には謝罪、「特別休暇」を付与し、有給休暇としては加算しないよう処理する 4.グループ会社を含めた国内全拠点において、同様の事象が発生しないよう注意喚起していく
メーカー本部からの回答書

筆者の質問状に対する、メーカー本部からの回答

 この回答書を受けた数日間、B氏の環境や条件はしばらく変わることがなかったが、その後の段階を経て、結果的にA氏から「Bが通常業務に戻った。有給休暇も特別休暇に変更された」という連絡が筆者の元へ届くに相成った。  一件落着した今、最終的には企業としての迅速な対応に一応の評価はできる。それゆえ、筆者も「解決したならば社名を公表し記事化する必要はない」と思ってはいるが、やはりトラックドライバーや、その家族に対する当初の考え方や扱いには今でも憤りを覚える。  医療従事者に対する差別然り、第一線で働く彼らエッセンシャルワーカーには称賛の声が掛けられこそすれ、こうした仕打ちは「社会的裏切り」とも言っていい。  同案件に関わらず、ニュースは報道されなくなったからといって、「問題が解決された」わけではない。大衆の興味関心が薄れ、メディアで報じられなくなった後にも、同じような境遇に対峙する人、している人が多くいる。実際、筆者の元には、今でもトラックドライバーや宅配従事者、レジ係、看護師、外国人労働者などから職業差別に対する相談がやってくる。  緊急事態宣言解除など、コロナは現在一旦終息に向かいつつあるが、これまで世間に多く見られた「人間性疾患」という無意識なる症状を省みて、今後に活かせる指標になればいいと、この案件を通して思った次第だ。 <取材・文/橋本愛喜>
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書) Twitterは@AikiHashimoto
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