しかし応募数は、本記事の取材を行なった5月8日時点では10人ほどにとどまっている。
その理由について都築社長は、2つの課題があると見ている。
「ひとつは、この取り組み自体が始まったばかりで認知が進んでいないことです。今後は、PRに力を入れていくつもりです。もうひとつは、保育業界へのマイナスイメージです。インターネット上には『保育士=ブラック』という情報がたくさんあります。確かにイベントの準備や工作、手書きの連絡帳など保育士が担当する仕事は多く、残業するケースもあります。ただ近頃は保育現場でも業務の見直しが行われ、ブラックどころか待遇が良いところもあります」
待遇についての詳しい情報は求人票に明記されないことがある。その理由について都築社長は、「保育業界では、お金や報酬目当てで来てほしくないと思う方がいらっしゃいます。そのため、本当は待遇がいいにもかかわらず求職者に伝わらず応募に至らないこともあるのです」と明かした。
ここで実際の待遇の一部を紹介する。
■社会福祉法人Aのケース
東京地区の月収:【四大卒】月給250,200円~、【短大卒】月給248,200円~
賞与:昨年実績年3回、住居手当、資格手当など各種手当あり宿舎借り上げ支援制度あり。
■社会福祉法人Bのケース
東京地区の月収:215,000円(2年目:月給220,000円以上)
賞与:年3回(4.5~5.5ヶ月)
その他:宿舎借上げ制度(82,000円/月)
■社会福祉法人Cのケース
【院卒・四大卒】月給190,000円、【短大・専門卒】月給185,000円
賞与:年2回(前年度実績4.5ヶ月)
その他:入職お祝い金100,000円、引っ越しサポート50,000円、社宅や宿舎借り上げ制度あり。
月収は19万円台〜20万円台半ばまでばらつきがあるが、基本的には賞与があり、宿舎借り上げや引っ越しサポートといった福利厚生もついている。まとまった休みをとれるケースもあり、「低賃金で休みなく働く」というイメージとは異なる。
都築社長は今後の保育業界について、「新型コロナウイルスの影響で保育園が休園になったり、保護者に登園の自粛をお願いする動きが見られました。突然の自宅育児で思うように仕事ができず、親御さんとしては大変な時期です。見方を変えれば、保育園が社会的に重要なインフラであることを多くの人が痛感したと言えます。今後、保育士さんの地位が見直されていくと思っています」と語った。
園長先生は「他業種での経験は保育現場で役立つ」とエール
東京都北区を拠点に8つの保育園を運営する、社会福祉法人つぼみ会の中嶋雄一郎統括園長は、キャリアフィールドが進める保育士講座受講料の全額免除の取り組みに賛同する一人だ。
「採用したくても応募者が少なく、採用に労力がかかるようになっています。10年ほど前はハローワーク経由で応募される方がいらっしゃいましたが、最近では就職フェアに出展し、来場者に直接アプローチすることが多いです。
しかし最近は新型コロナウイルスの影響で説明会が開けないので、SNSへの露出を増やしたり、オンラインでの説明会や採用面接を行なったりしています。パートさんとして一緒に働きながら保育士資格取得に向けた学習を進めてもらい、資格取得後は正社員としてより深く保育に関わりともに良い保育を目指していける。キャリアフィールドさんの取り組みは素晴らしいと思います」
中嶋さんが運営する保育園では、6~7年ほど前から業務の見直しを進めている。連絡帳への手書きをやめて、デジタル化に移行。文章入力する作業は発生するが、一冊ずつ手書きする必要はないのでスタッフの負担は軽減する。
また月ごとの作品やイベント時の過度な制作物は保育士の負担になりかねないので、最低限にしている。
「保育業界には奉仕精神を持つ人が多いので、子どもたちのために一生懸命な方が多いです。それは素晴らしいことですが、働きすぎて疲れてしまい、子どもたちに充分なケアができなくなってはいけないと考えました。そこで思い切って業務内容を見直し、やめられることはやめていきました」
最後に中嶋統括園長は、「保育士の経験がなくても大丈夫。中には他業種で働いた後に保育業界に来られる方がいますが、活躍されていますよ。これまでのキャリアは、保育園でも必ず役に立ちます。反対に私たちが他業種での考え方から学ぶことが多いんですよ」とエールを送った。
<取材・文/薗部雄一>