日本の象牙利用の約8割を占めるハンコ業界は「脱象牙」を
日本政府の「日本には象牙が密輸されていない」とする主張も楽観的すぎるだろう。坂元弁護士は「日本の税関が違法象牙を見つけられていないだけの可能性が高い」と指摘する。
「ETIS(ワシントン条約のゾウ取引情報システム)によれば、2011~2016年の間に日本から中国へ象牙が密輸出された113件のうち、その94%は中国で押収された事件であり、
日本で輸出の差し止めに成功したのは全体の6%にすぎません。つまり、税関をすり抜けてしまう違法象牙は、日本政府側が把握しているよりもかなり多いのではないかということです」(坂元弁護士)
象牙の国内取引を続ける日本は、国際社会から厳しい視線を浴びている。
「昨年、スイスで開催された(絶滅が危惧される動植物の国際取引についての)第18回ワシントン条約締約国会議でも、
アフリカ32か国が日本に対して名指しで象牙市場の閉鎖を求めています」(坂元弁護士)
日本における象牙利用の約8割が、ハンコのための印材だ。これに呼応するかのように「現在でも、ハンコまたは半加工の印材が世界各地で押収されている」(坂元弁護士)と、ハンコとしての需要をあてこんでの象牙の違法取引が行われていることは明らかだ。
行政や企業の「脱ハンコ」の流れによって、業界存続の危機感が高まっているハンコ業界だが、だからこそハンコの「脱象牙」も必要だろう。
「ハンコ業界が印鑑登録制度の存続を訴えるなら、国際的な批判を伴う血塗られた象牙ではなく、チタンやカーボンファイバーなど別の高級印材を使っていくことが、業界の自助努力によるハンコ存続の道であるのではないでしょうか」(坂元弁護士)
今後ハンコ業界がどうなるにせよ、国内取引を禁止し
「象牙はもはや売り物にならない」というメッセージを世界に発信する責任が日本にはあるだろう。
<文/志葉 玲>
【ニュース・レジスタンス】