栗原康さん
コロナ禍は、大学生の生活にも脅威をもたらしているという報道も多く流れているが、この状況下、
『大杉栄伝 永遠のアナキズム』(夜光社)や
『村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』(岩波書店)などの著書がある政治学者・栗原康さんが
『奨学金なんかこわくない! 学生に賃金を 完全版』(新評論)を刊行した。
本書は同出版社より2015年に刊行された
『学生に賃金を』の完全版だが、コロナ禍が学生の生活をも直撃する今、大学や高等教育におけるたとえば授業料や奨学金の問題や高等教育の無償化、そして大学とは何かということについて視点を持つことには意義、しかも喫緊の……!があるだろう。
この本で展開される話は、高等教育の無償化ーたとえば著者が語る「学生に賃金を!」「学費も生活費も公費負担で!」「すべての失業者に学籍を!」というものに代表される、いわゆるアナーキーというか、もしかしたら突飛に感じたり、いや、ギョッとされてしまうかもしれないものだ。
しかし、アノ日本政府ですら大学生に10万円を給付するという話が出ている状況下、むしろ本書にあるのは、学生が学業を放棄することがないようにするためだったり、また大学という「場」が存在していくために必要なものの考え方や条件について極めて実際的なものだと言って良いのである。
高等教育をめぐる論点は多いが、たとえば授業料の問題をピックアップしてみよう。格差問題が深刻化し、だいたいの人が貧しくなっていく中で大学の授業料は上がっていったことは指摘しておいてよいだろう。文部科学省によると2017年時点で国立大53万5800円、公立大53万8294円、私立大87万7735円だ。これをたとえばバブルが崩壊した1991年の国立大37万5600円、公立大36万6032円、私立大64万1608円と比べてもそれぞれ約1.4倍、約1.5倍、約1.4倍と上昇している。
いっぽうで全世帯を5等分した所得5分位階級別の所得金額のなかでもっとも人口の多い層である第2階級の所得は2017年で271万6000円、91年で342万円と、約0.8倍に低下している。なお、私学助成法が公布された75年には授業料がそれぞれ3万6000円、2万7847円、18万2677円だったことも付け加えておきたい。
さてさて、そんな栗原さんに、学費や大学をめぐる問題についてお話をいただくことができたので、その内容を公開させていただこう。
報道によれば「2割の大学生が退学を考えたこともある」という状況下、大学側もコロナ禍の中の対応として、たとえば早稲田大学が10万円、明治学院大学が5万円などの「補償」を決定したことをこのように語る。
栗原「学生を救うためにすぐにカネをだすのはいいとおもいますが、むずかしいのは、それができるのは一部の有名大学にかぎられてしまうということです。カネのない、地方の大学におなじことはできないでしょう。大学間格差が助長されてしまいます。また、それでことさらに早稲田はすごいとかいう必要もないとおもいます。これまで学生たちはありえないくらい学費をむしりとられてきました。それが還ってくるのはあたりまえなのです。学生たちは『こんなハシタガネで満足できるかよ、ケッ!』くらいの気持ちでカネをもらうとよいでしょう」
数万円の「補償」のほか、今、大学側が学生に対して取るべき方策には、どういったものがあるのだろうか。
栗原「すべての授業料を免除して、生活費として給付型奨学金をくばることです。だれにカネをだすのか選別さえしなければ、すぐに実施できます。これ以上、かんたんな緊急措置はありません」
生活費としての給付型奨学金、それが学生を救うことになると栗原さんは語る。現在、バイトのシフトが減らされる、いきなり解雇されるなどで大学生の経済状況が大変なことになっているということについては、「意外」な角度から問題について語る。
栗原「学生がバイトしなくてもいいというのは、のぞましいことだとおもいます。だって、やりたくないでしょう。バイトしなければ大学にいけないというほうがおかしかったのです。コロナが終わっても、バイトしないをあたりまえにしましょう。
さいきん、デヴィット・グレーバーという人類学者が、コロナはわたしたちがほんとうにのぞんでいることはなんなのか、それをはっきりさせるチャンスをくれたといっています。いまこそいわなくてはなりません。学生に賃金を。バイトしない!」
選別せずにカネを出すのが一番簡単という栗原さん、「バイトをしないと大学に行けない、生活費が稼げない」という現状自体を問うべきではないか、そしてそれはコロナ禍が逆説的に炙り出した、と指摘し、学生や親を悩ますだろう授業料の無償化を求める。