検察庁法改正案への抗議の声に水を差す人が知っておくべき、今改正案の問題点

国家公務員法の適用に関わる問題

 ややこしい話なのですが、そもそも政府は黒川検事長の定年延長に関して「国家公務員法の規定が適用される」と主張してきました。 “昭和五十六年当時と比べ、社会経済情勢は大きく変化し、多様化、複雑化しており、これに伴い犯罪の性質も複雑困難化している中、検察官においても、業務の性質上、退職等による担当者の交代が当該業務の継続的遂行に重大な障害を生ずることが一般の国家公務員と同様にあると考えて、昨年十月末頃時点の考え方とは別の視点から、検察官にも国家公務員法上の勤務延長制度の適用があるとの見解に至ったものでございます。(参議院法務委員会 令和2年4月2日 森まさこ 法務大臣の答弁)  しかし、当たり前の話ですが、わざわざ国家公務員法の規定と検察庁法の規定を分けている以上(国家公務員法のほうが広い概念なので)、従来の政府見解では、国家公務員法の規定が検察庁法に規定されるわけがない、としていました。  国家公務員法の適用が可能なら、検察官も国家公務員である以上、検察庁法でわざわざ定める必要がないですよね。 “今御指摘の資料の中に掲載してあります資料の中に、検察官に国家公務員法の勤務延長の規定が適用できる旨の記載がなされたものはございません。“(参議院法務委員会 令和2年4月2日 川原隆司 法務省刑事局長の答弁)  これを、書類を残さずに「口頭で」決済したとされたことが、国会でも大問題になりました。検事長の定年延長に関して、「できない」としていたものを、「あ、昨日話して、出来るという解釈に変えました!」と一夜にして変更してしまった訳です。 “ここには当たらないと解釈をしましたけれども、口頭の決裁、つまり、内閣法制局等と協議するに当たり、事務次官まで確認をして、その内容を了解をしているものと承知をしております。“(衆議院 予算委員会 令和2年2月26日 森まさこ 法務大臣の答弁)  法律の条文をどう解釈するかというのは政府にとっては極めて重要であり、一夜にして法令の解釈を、書類を残さずに行うというのは、文書主義の役所でも絶対にありえない話です。  とりわけ、検察という、一定の独立性を必要とする組織で、このようにデュー・プロセスを欠いた法の執行が行われることは由々しき事態です。

名人芸的技能とはなにか

 実は、職員の勤務延長に関して、人事院にはきちんと規則があります。いくつかありますが、黒川検事長に適用されるのは下記の条文です。
“職務が高度の専門的な知識、熟達した技能又は豊富な経験を必要とするものであるため、後任を容易に得ることができないとき(例 定年退職予定者がいわゆる名人芸的技能等を要する職務に従事しているため、その者の後継者が直ちに得られない場合)“
 もちろん、検事長まで出世されるということは、非常に優秀な方なのだと思います。  しかし、検事長のポストにおける「名人芸的技能」とはなんでしょうか? 政府は全くこの点についても答弁せず、「他で得難い人材」という答弁を壊れたテープレコーダーのように繰り返すばかりです。

なぜ検察庁法を改正する必要があるのかの問題

 少し露悪的に言えば、国家公務員法の規定が「本当に」検察にも適用できるなら、検察庁法の改正など必要ないわけです。  しかし、わざわざこのあとに検察庁法の改正案を束ねで盛り込むというのは、結局の所黒川検事長の定年延長が「ウルトラC」であるということを認めているのです。  つまり、もし本当に検察庁法を改正するなら、まず黒川検事長が不適切に検事長の座にいることを認め、辞任していただいた後に議論するのが筋です。
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審議過程における、憲政史に残るずさんさ
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