文化水準によるカルチャーギャップと、西欧社会への的確な指摘
また、金正日の主体文学理論の筋書きについての概念について学んでいた他のある日、先生は私が記憶している映画シナリオについて聞いた。私は再び、少し考えたあとに2013年に出たアメリカのSF恋愛ドラマ
「her」(邦題『her/世界で一つの彼女』)を紹介した(読者もわかるように、私はSFにハマっている)。
私:ある男が、人工知能に惚れるという内容です。
先生:人工知能と恋愛するだって?
私:はい。そしてその人工知能は、声でだけ登場します。
先生:外国のSFの筋書きはそうなのか……。
私:この映画は少し特殊です。
先生:で、どこの国の作品だ? またアメリカか?
私:ええ……我がオーストラリア人は事大主義に溺れ、アメリカの作品を自国の作品よりも好むのです(私は半分、冗談のつもりでこう言った)。
先生:ハハハ、そうか。ハリウッド映画か?
私:はい、ハリウッド映画の中には洗練されていないものもあれば、良いものもあります。
先生:フーン、そうか……(意味深な沈黙)
この会話は、私が休暇から戻った直後のものだ。
先生:アレック同務、休暇はどうでしたか?
私:はい、オーストラリアの両親の家で過ごしました。
先生:ご両親のお宅はどんな家?
私:我が国の人々は大抵、庭のある一軒家で暮らしています。我が家もそうです。
先生:庭ですって! すごいわね……。
私:私は帰るたびに、庭の植物に水やりをしています。
先生:ああ、そう。それは大変な仕事ね。川に行って汲んでくるのだから……。
私:(少しとまどいながら)川に行く必要はありません。幸いにも家のホースで水道水を使えるので。
先生:ああ、そうなのね。
「そんなにカネがあるなら、なぜ難民を助けないんだ?」
他の先生は、私の国について正確に知っていたが、ある日私にこんな質問をした。
先生:オーストラリアはヨーロッパほど暮らしが良くないのか? 生活水準はどうなんだ? 賃金は普通、どのくらいだ?(この先生はストレートに聞いてくるタイプだ)
私:ふむ……インターネットで正確な統計を調べてみます。世界的には高いほうのはずです。賃金が高いだけでなく、最低賃金もアメリカよりはるかに高いです。
先生:そうか。それで軍隊の賃金はいくらなのか調べてみろ(先生の子供が軍に入隊しているため、おそらくそれで質問したのだと思う)。
私:(ネットで調べた後)我が国の政府の統計局によると、平均年収は8万豪ドル、つまり6万米ドルでした。時給は20豪ドル、つまり16米ドルです。軍隊の場合は6万5000豪ドル、5万米ドルですが軍官ですと7万5000豪ドル(5万5000米ドル)以上です。
先生:相当に豊かな国だな。しかし、
カネがそんなにたくさんあるなら、なぜ難民たちを助けないんだ?
私:(話が突然変わったことに慌てつつ)ああ……私も我が国の政府に同じ質問をしたいです。
インターネットも、外部世界との接触もないのに、彼はあまりに良い質問をした。西洋社会の偽善性を看破したのだった。また、他の先生はオーストラリアと中国の混血である私のバックグラウンドについて好奇心を抱いていた。
先生:オーストラリアでは外国人と結婚するために政府から許可をもらうのは簡単か?(すべてのことに対し政府の許可がいる朝鮮社会でのみ発せられる質問ではないかと思う)
私:我々は結婚対象を自由に選択することを個人の自由と考えています。外国人の場合も同じです。我が国は過去、人種差別思想がありましたが今日は多文化主義的政策を行っています。今は国際結婚が非常に増えました。
先生:ああ……しかし、アジア人に対する人種差別はまだあるのか? たとえば、オーストラリアに行って仕事をもらえるのか?
私:(金日成総合大学の博士という学位がオーストラリアで認定されるかどうかは別として)我が国の法では職業上の人種差別を厳しく禁止しています。大学などの公共機関ではその規則を厳格に実施しています。残念ながら、我が国では白人によるアジア人と黒人差別がまだ多いですが、これは日常生活と文化の上でのことです。職場で人種差別をすると訴訟が起こり、メディアに報じられその企業が社会的非難を浴びることでしょう。
先生:ああ、それなら私もいつか働きに行こうかな? ハハハ……(先生も冗談めかして言った)。
次回は、彼らのような朝鮮の学者の学術活動について述べたいと思う。
<文・写真/アレック・シグリー>