「オンライン授業が、
プライベートな空間を侵食する危険があるのではないかと懸念しています」と警鐘を鳴らすのは、
上智大学の北條勝貴教授だ。
「本来、学校という公共の環境でするはずの教育を家庭というプライベートな空間で行うと、部屋や機材などを占拠して使用してしまい、
無自覚にせよ家族などに負担を強いる可能性がある。それを『授業だから仕方がない』と私的な空間であるにもかかわらずオフィシャルな正当化で抑圧してゆくことでストレスが蓄積され、予想外の問題へと発展するかもしれない。講義を行う教員の家庭でも同じようなことが言えます。
また、ライブ授業では学生同士でカメラから家庭が見えてしまう場合があります。以前、SNSにアップされた女性の瞳に映った景色から自宅を特定したストーカーがいましたが、類似のトラブルが生じる危険もあるでしょう。
こうした問題を出来るだけ回避するために、時間割によって学生を束縛するライブ型の講義ではなく、テキストベースの解説や動画を事前に教務システムなどにアップしておき、それを学生が見たいときに見るといったオンデマンド型の講義の方が望ましいと考えます」という見解を示した。
北條教授はさらにオンライン化をめぐる諸問題について、こう話す。
「学生のネット環境が十分に整備できるか、講師側がオンライン化に対応できるかなどの問題がありますが、それらはだんだんと解決していくと考えています。ただ、文科省や携帯各社などが次々と支援策を打ち出しているが、学生側が情報を得られていないこともある。それらの
情報を大学側が整理して発信し、学生を不安にさせないよう努める必要があると思います。
また、図書館が使えないこの機会に、
ネットを活用した調査・研究の技術を例年以上に学生に教授し、ネットリテラシーを向上させたほうがいい。今年の教育を経験した世代は、他の世代よりネットリテラシーが高い、という所まで持って行ければと考えています」
オンライン授業は多くの実利がある。学生からすれば便利に感じる部分は多く、実技や実験以外のマス向け授業に関しては今後普及していくかも知れない。一方、解決すべき課題はまだまだ残されており、収束後も対策を考えていかなければならない。
<取材・文/茂木響平>