聞こえのいい言葉で誤魔化し、現在の補償から逃げる安倍総理
続いて志位議員は別の関係者の声や海外の動きにも触れながら、イベント関係者への補償を約束するように総理に迫る。その質疑は以下の通り。
志位議員:「エンタメ関係者からこういう訴えもありました。イベント中止によって最も苦しい状態に陥っているのは、舞台を裏で支えている人々です。音響、照明、舞台装置、衣装、メイク、グッズを製作、会場警備など裏方の方々です。そういう方々の暮らしが立ち行かなくなれば日本の芸術文化は土台から崩壊し、いったん崩壊したら再生できません。文化芸術を壊さないための補償がどうしても必要です。
指揮者の沼尻竜典さんはこう訴えておられます。
『文化芸術は水道の蛇口ではありません。いったん止めてしまうと次にひねっても水が出ないことがあります。今が公演を止めるべき時期だということは分かっています。ただ文化芸術の蛇口に手をかけている政治家の方々には芸術の営みを止めることへの痛みを感じる想像力を持って頂きたく思います。』
総理、この声に応えるべきであります。ドイツの文化大臣は芸術家・フリーランスへの無制限の支援を約束しています。文化芸術スポーツは私は人間にとって贅沢なものではないと思います。人間として生きていくために必要不可欠な酸素のような貴重なものだと思います。総理、日本の文化芸術スポーツを守り抜くために補償をきちんと行うとこの場で約束してください」
安倍総理:「
えー、我々のこの人生においてもですね、えー、生活においても、おー、文化、あー、芸術、これは必要不可欠な存在だろうと思っております。(
赤信号)
あのー、おー、ま、この中におきましてですね、えー、我々はどのような対応をしていくかということでございますが、あのー、先ほども申し上げたことでございますが、あー、この持続化給付金につきましてはですね、いわば、あー、こうした分野で、えー、頑張っておられる皆さんに多いフリーランスを含む個人事業主に対しましてもですね、あのー、給付をするということに、えー、しておりますし、(
黄信号)
また、これに加えまして、えー、雇用調整助成金を、ま、大幅に拡充しまして、特に休業要請に応じた中小企業については、え、休業手当の全額をですね、えー、日額上限の範囲で国が肩代わりすることとしておりますし、(
黄信号)
また、スポーツ文化イベント中止の際のチケット代の税制特例。税や社会保険料の猶予。実質無利子無担保最大5年間元本返済不要の、えー、融資制度などあらゆる手段で事業の継続と雇用の維持を図ってまいります。(
黄信号)
えー、またですね、えー、まあ、こういう、うー、国難とも呼ぶべき事態にありますが、こういう時こそ人々の心を癒す文化や芸術の力が、ま、必要であり、そして、困難にあっても文化の灯は絶対に絶やしてはならないと考えております。えー、今般の経済対策においても、えー、事態収束後においてイベント実施に対する新たな支援制度の創設や各地の公演・展示・展覧会の開催など文化芸術に携わる人々の活躍の場を提供するための施策を講じて、えー、いく方針で、えー、ございます。えー、ま、その、いわば、その段階になってさらにそういう皆様方に対してですね、えー、我々、支援策を厚く講じて参りますが、それまでの間、大変厳しいわけでございますが、我々もできる限りですね灯を絶やさないように全力を尽くしていきたいと思っています。(
赤信号」
志位議員:「あの、このイベント分野というのは総理が名指しでね、自粛を要請したわけですから特別の補償があってしかるべきだということを重ねて申し上げておきます」
見ての通り、「文化芸術スポーツへの補償を約束して欲しい」という志位議員の訴えに対して、安倍総理は全く答えていない。1段落目で「文化芸術は必要不可欠である」と明言し、その後も長々と答弁してはいるが、質問には一言も回答していないのだ。では、一体何を話していたのかといえば、既に補償としては不十分だと明らかになっている既存制度の再説明、論点すり替えに終始している。
まず、2段落目、3段落目、4段落目は周知の事実であり、
黄信号
と判定した。
2段落目:持続化給付金の再説明
3段落目:雇用調整助成金の再説明
4段落目:その他の既存制度の再説明
持続化給付金は本記事でも何度も説明した通り、支給条件や上限を加味すると補償としては不十分。雇用調整助成金は労働者に必ずしも渡るものではない。その他の既存制度として無利子無担保の融資制度も説明しているが、借金であることに変わりはない。先が全く見通せない中、借金に手を出すことは難しいだろう。
そして、1段落目と5段落目は論点をすり替えており、
赤信号とした。
1段落目
【質問】文化芸術の
補償
↓ すり替え
【回答】文化芸術の
必要性
5段落目
【質問】
現時点での補償の
約束
↓ すり替え
【回答】
コロナ収束後の補償の
方針
特に気になったのは
5段落目。「人々の心を癒す文化や芸術の力が必要」「文化の灯は絶対に絶やしてはならない」などなど、
聞こえの良い言葉を並べてはいるが、具体的な対策としては事態終息後の方針を述べているに過ぎない。今現在の生活すでに危うい中、いつになるのか誰も知らないコロナ収束後の話を持ち出されても、視点が完全にズレているとしか言いようがない。この答弁で分かったのは、総理の眼中には
今現在苦しんでいるイベント関係者の生活は全く見えていないということだけだ。
収束後のGoToキャンペーンに1.7兆円使い、現在の国民の危機は無視
最後に志位議員が指摘したのは、今回の補正予算で批判の的となったGoToキャンペーン事業の1.7兆円。その質疑は以下の通り。
志位議員:「最後に1問だけ。あの、直ちに補償を求める皆さんから共通して出された政府の補正予算案に対する批判があります。それは
GoToキャンペーン事業。新型コロナが収束した後に官民一体型の消費喚起キャンペーンを実施するという事業に1.7兆円ものお金をつけていることです。この
非常事態のもとで収束後の事業にのんきにお金をつけている場合かという怒りが広がっております。収束の目処がつかないもとで収束後の事業に注ぎ込む予算が1.7兆もあるのなら、まずは目の前の感染爆発、医療崩壊を止め、一刻も早い収束のために使うべきじゃありませんか。総理、どうでしょうか」
安倍総理:「
あのー、おー、ま、例えば、今申し上げました文化芸術振興のための予算もですね、このGoToキャンペーンの中には入っているわけでありまして、こういうまさに文化芸術に触れようというキャンペーンも行っていくわけでございます。で、えー、ありますから、今まさにこの厳しい状況ではございますが、あー、この、おー、収束後、おー、について、いつ収束するのかということについてはまだ確たることは残念ながらお答えできませんが、その後にですね、しっかりと、今大変苦しい思いをしている、うー、中の皆さんにとって、え、将来の、とも、灯火となるような政策もしっかり示していく必要があるとこう考えているところでございます。(
赤信号」
志位議員:「あの、文化のお金もね、GoToキャンペーンに入ってるとおっしゃいましたけど、収束ができたらね、そんなプレミア付けなくたって、みんな行きますよ。
早く収束させることが重要なんです。補正予算案が感染爆発と医療崩壊を止め、暮らしと営業を守り抜く内容となるよう抜本的な組み替えを強く求めて質問を終わります」
この総理答弁は、
あからさまに論点をすり替えており、
赤信号とした。
【質問】現時点での補償
↓ すり替え
【回答】コロナ収束後の補償
志位議員がすかさず突っ込んだ通り、
コロナが収束すればGoToキャンペーンのような施策を打たなくてもイベントに観客が行くのは当たり前の話だ。当然、そんなことは政府も認識しているはずで、いま物議を醸しているアベノマスクと同様にこのGoToキャンペーンもやはり利権が絡んでいるのではないかと疑わざるを得ない。残念ながら、この緊急事態にあってもなお政府は国民への補償ではなく自らの私腹を肥やすという観点で動いているように見える。
本記事の冒頭で私が2つのクラウドファンディングを紹介した際、本来は個人の寄付に頼るのではなく、政府がイベント関係者に補償すべきだと述べた。だが、この総理答弁からは政府は補償する気がさらさら無いように見受けられる。残念ながらドイツとは異なり、文化芸術の灯火を絶やさぬためには個人の善意(寄付)に頼らざるを得ないのがこの国の実情だ。
<文・図版作成/犬飼淳>