高性能不織布マスクは、2003年頃に登場し、マスクに大革命をもたらしました。日本でも極めて有効な花粉症対策として高性能不織布マスクは大歓迎をもって受け容れられ、日本は世界でも唯一と言って良い「町ゆく人々の多くがマスクをしている」国となりました。国策公害病である花粉症が日本独自のマスク文化を発達させたわけですが、これが新型コロナウィルス・パンデミックでは大きく幸いとなったと筆者は評価しています。
しかしマスク供給国である中国の経済活動の停止と全世界でのマスク需要の急増によって市中からマスクが消滅し、備蓄の枯渇した花粉症患者が困り果てることとなりました。医療現場でもサージカルマスクの枯渇がたいへんな問題となっています。
本来、
インフルエンザパンデミックに備えて国や自治体にはマスクの備蓄が求められていたのですが、蓋を開ければ備蓄を怠ってきたことが明らかとなり、突然の需要急増と供給の不安定化によってマスク市場が混乱しました。元々このような事態を避けるために公的備蓄が求められてきたわけで、この不作為はたいへんに高くついています。
しかし、不織布にしてもマスクにしても安定していた需給関係が突然需要の急増が生じたために素材価格の高騰などが生じましたが、素材産業においてこれは商機であり、新たな市場環境に合わせればよいだけです。元々需給が固定的な市場で生産活動の停止と需要急増が生じたための一過的現象ですので、価格が高騰すれば増産するか、競合別素材が市場を奪うだけです。「不織布の価格が急騰したからもう駄目だ」などというのは、群雄割拠の素材産業を甘く見ています。
半導体産業ケミカル品の輸出規制という政治案件の嫌がらせをすれば、デスバレーで止まっていた*別のサプライヤーが立ち上がり、下手すると二度と顧客は戻ってこない可能性があるというドシロウト並みの失敗を冒している本邦ですが、今回は需要者側であり、生産者側でもあります。筆者には巨大な商機が目の前に転がっているようにしか見えません。
〈*技術経営における常識として、デスバレー(死の谷)がある。新たに商品、技術を開発しても市場、価格、需要、開発コストなどの問題で事業化を阻止する「死の谷」があり、最大の阻害要因となる。日韓貿易問題では、日本側の政治的輸出規制によってそれまで「死の谷」で止まっていた韓国側化成品産業が市場を奪還する動きを見せている。この場合奪還されれば顧客は二度と戻ってこない〉
3月後半に入り、中国の経済活動が再開した結果、4月下旬になるとマスクの量の確保はかなり進み始め、市中価格も急速に下がりはじめています。性能に関してはなんとも言えませんが、高性能不織布マスク(サージカルマスク)の需給は回復しつつあると言えます。これは
単純な需給関係によるもので、一部流されている
「布マスク二枚支給のおかげでマスク価格が下がっている」という珍説は、真っ赤な嘘です。そもそも
「アベノマスク」事業は、たったの4%供給の時点で不良率が数パーセントに及ぶという失態によって頓挫しています。衛生製品でこの不良率は致命的で、全量回収の上で焼却処分しかあり得ません。
政府がすべきことは、N95マスクをはじめとする医療用個人防護具(PPE)世界的争奪戦(世界マスク大戦)に勝利することと、冬には予想されるパンデミック第二波に備えてPPEの備蓄を進めることです。
そして、高性能不織布マスクの価格が上昇していると言うことは、極めて優秀な日本の不織布マスクの競争力が回復していると言うことです。日本におけるパンデミックを4-6週間も遅滞させた超高性能を謳い、Japan Maskが世界のPPE市場で大暴れできればと筆者は願います。
◆コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」新型コロナ感染症シリーズ4
<文/牧田寛>