ただコロナ以前から銀座は不景気だったと言うのが、中級クラブのホステスとして6年目の宮野綾さん(仮名・38歳)だ。
「そもそも銀座は企業の接待で回っています。しかし、企業が接待交際費をカットし始めたため、特にここ1年はずっと暇でした。私は月給40万円ほどですが、それでもお店の中では良いほうで、
20万円代のホステスも結構います」
スナック10年、クラブ6年の銀座歴を誇る宮野綾さん(仮名)はネットを使い、銀座の魅力を発信する「オンラインクラブ」をつくり、常連や新規客と交流する
また、六本木などとは異なる昨今の銀座事情をこう話す。
「
『一見さんお断り』など古い体質がある銀座には、歌舞伎町や六本木のように若い新規のお客さんは来ません。
もともと景気が悪かった銀座にコロナはクリティカルヒットです。仮に今回を乗り切っても新規のお客さんが来ないままでは、ボリュームゾーンの50~60代のお客様がご隠居される15年後くらいには銀座は沈むのでは」
コロナ禍に加えて偏見や規制……。銀座の灯はどうなってしまうのか
「銀座で飲む、遊ぶ」というのはかつてある種のステータスだったが、それもいまや若者世代にはピンとこない話で、過去の遺物だ。
また水商売について回るのは反社とのつながりやぼったくりなどグレーな側面。それもあってか若い客の足が遠のいている一面も捨てきれない。そんなイメージを払拭しようと立ち上がったのは、前述のママたちとともに自民党本部を訪ねたひとり、日本水商売協会の甲賀香織代表理事だ。
「水商売に対しては社会的な偏見や規制が多くあります。性風俗と社交飲食業が風営法で一括りにされて偏見を持たれたり、実は銀行口座がつくれない、登記ができないなどの不合理な規制も多い。それをくぐり抜けるためにグレーな手法を用いざるを得ないお店もあり、いつまでもアングラな雰囲気が払拭できないのです。しかし、働き手はきちんと納税もしていますし、その意味では普通の会社員と変わらないのですが……」
自民党に銀座のママたちと意見書を提出した日本水商売協会の甲賀香織代表理事。自身の銀座ホステス経験をもとに、全国の夜の街との連携を図っている
このように市民社会から排除されている現状を周知する目的も、件の要望書提出にはあったという。
「もちろん、金銭的にお店の経営者が困っている現状を訴えるのが主題です。銀座では3月末に発表された週末の外出自粛要請で、ほとんどのお店は休業しました。要請が出た瞬間、金策に走ったクラブオーナーたちも多く、その窮状を知ってほしいということで、5000人を超える署名活動を行い、要望書の提出に至ったんです」
一方、銀座の飲食店が加盟する銀座社交飲料協会も「中央区長や都知事には何度も陳情に行き、銀座の灯を消さないよう努めています」と取材にコメントした。
このような働きかけもあってか、岸田政調会長は飲食店への家賃補助について言及している。これは一縷の望みに思われるが、当事者にしてみれば、実際のところはかなり厳しいようだ。
「自粛は1年どころか2年続くという話もあります。そうなるとたとえ500万円の融資を無利子・無担保で受けられても、お店を維持できるかはわかりません。このままだと銀座のお店は3分の1になるんじゃないですか」(ママ)
一度壊れた街の再生は容易ではない。再び銀座の灯はともるのか。
<取材・文・撮影/沼澤典史・野中ツトム(清談社)>