靖国通り沿い、メディアカフェポパイの前に座り込んでいた40代の女性。完全防備の服装が“覚悟”を感じさせる
「三密の温床」とされ、休業要請を受けたネットカフェ。多くのネカフェ住民を抱えた歌舞伎町は、あまたの“難民”を生んだ。彼らはどこに行き、どこで寝るのか、その姿を追った!
4月7日に政府が発令した「緊急事態宣言」を受けて、東京都の休業要請の対象になった施設は続々とシャッターを下ろしている。とりわけわずか300m四方のエリアに風俗店や飲み屋、遊興施設などが密集する新宿区・歌舞伎町はまさに自粛の象徴的な土地となり、街の灯は消え、人通りは激減した。
休業要請に伴い、ホストやホステス、風俗嬢から飲食店員まで多くの“歌舞伎町住民”が仕事を失い、無給の苦しみの渦中にある。だがさらに深刻なのは、ネットカフェやカラオケボックスなどを寝床としている「ネットカフェ難民(以下、ネカフェ難民)」と呼ばれる人たちだろう。彼らにとって、遊興施設の休業は雨露を凌ぐ屋根を失うことと同義だ。東京都の推計では、東京都内のネカフェ難民は、一日当たり約4000人に上るという。
休業要請を受けて多くのネカフェが営業自粛へと舵を切った
歌舞伎町近辺の主なネカフェは12店あるが、「Booth Net Cafe & Capsule」は、4月3日にいち早く休業。続いて、緊急事態宣言の翌4月8日に1店、週末土曜の4月11日には、1日の客数が1000人を超える大箱の「グランカスタマ」を含めて4店舗が臨時休業に入った。そして週明けの4月13日、12時間パックで1810円という安価が売りでネカフェ難民の拠りどころだった「まんが喫茶ゲラゲラ」までもがドアを閉ざし、このエリアで営業中のネカフェは5軒となった。
歌舞伎町ガイドの仙頭正教氏に、コロナ真っ只中(4月23日現在)の歌舞伎町のネカフェ事情を聞いた。
「現在、歌舞伎町エリアで営業しているのは、マンボー3店舗、ポパイ、サイバーアットカフェのみ。明日に不安を感じながら営業している店が多いなか、マンボーだけはちょっと異質で、店内でマスクを販売してコロナ対策万全の姿勢をアピールしながら、商魂たくましく営業しています。ネカフェ難民の受け皿になるとの使命感もあるのだと思います」
歌舞伎町に3店舗ある「マンボー」はすべて開店(4月23日現在)。マスクの販売や、牛丼・カレー弁当食べ放題を実施するなど”孤軍奮闘”
仕事を失い、宿を失い…… 彼らはどこで雨露を凌ぐのか
一軒、また一軒と畳まれていくネカフェ。そこに暮らしていた人々はどこへ向かうのか。ゲラゲラが臨時休業に入った4月13日朝、店舗前の階段に座っていた50代の男性に声をかけた。彼は飲食店に派遣される調理師として生計を立てていたが、外国人観光客が消えた3月に仕事を失い、経済苦に陥っているという。
「カネがあるときは歌舞伎町の飲み屋に行って、サウナ『AKスパ』(15時~翌12時、2500円)に泊まるのが定番で、カネがないときはゲラゲラに泊まるという生活を送っていました。去年は外国人観光客がいっぱい来ていて仕事があったから、家なんてなくていいと思っていたけど、さすがにキツい。今日はこれから役所に行って相談したいと考えてます」
同13日の深夜には、営業中の「メディアカフェポパイ」の前に佇む女性が。40代後半の彼女は、近くのラブホの清掃員パートを2つかけもちしているそうだ。
「自宅アパートにいちいち帰るのが面倒になって、昨年夏頃から職場に近いゲラゲラで寝泊まりするようになりました。通勤電車に乗らないのはやっぱり楽で、アパートを引き払っちゃったんですよ。だけど新型コロナのせいでパートのシフトを削られて、貯金もほとんどなくてこのザマです。都が無料でホテルに泊まらせてくれる救済措置をとっているらしいというのは知ってました。でも、そんな施しを受けたくないって気持ちがあって、結局行かずじまいで……」
そうしてやってきたのが、ポパイ。なぜ店の中に入らないのか。
「フリータイムで朝5時から18時まで最大13時間1500円。めちゃくちゃ安くないですか? 13時間フルで入りたいから、店の前で5時まで待つつもりです。どうせ、明日も仕事がないんで」
彼らのように日雇いや派遣で自活していたものの立ち行かなくなる人々が続出するなか、公的サービスを頼るネカフェ難民もたしかにいる(下記参照)。東京都のコロナ対策は、無職者には一時的にビジネスホテルを斡旋し、収入のメドが立っている者には格安住宅を紹介する方針だが、大半のネカフェ難民は、生活保護を中心とした福祉制度に頼らねばならない。