彼女は、私を北の学生と同じように「同務(トンム)」と呼んだ
私はハン先生から「文学理論」の科目を履修し、授業が終わった後は一週間に一度は論文作成について話すため彼女に会いに行った。我々は授業内容と論文だけでなく、朝鮮文学全般について話し合った。
たとえば、キリスト教、そしてキリスト教が植民地時代の児童文学に与えた影響について話したことがある。我々は学術協力も検討したが、朝鮮文学の学術論文の共著を行うことも計画していた(これが実現していれば画期的だったが、私の逮捕によって霧散した)。その他、家族やプライベートに関する話もした。
私たちは、先生と学生であると同時に、良き友であるような感じもおぼえた。私が朝鮮にいるとき、人々は私にあらゆる呼称をつけた。寄宿舎の職員たちは私を「アレックお客様」と呼んだが、金日成大学対外事業部の職員たちは「アレック先生」と呼んだ。このような呼び方は、ある程度の距離があることを意味する。「お客様」という単語が商業的関係を意味するならば、「先生」は西洋人に対する敬称でありながらも、やや冷たさを帯びた言葉だ。
しかしハン・ユンミ先生は朝鮮の学生と同じように私をつねに「アレック同務(トンム)」と呼んだ。それが私にはありがたかったし、今でもそう思う。彼女は、私が金日成総合大学で出会った美しい朝鮮人のうちの一人だ。私は彼女について話すことで、なぜ私が今だに朝鮮を愛し、懐かしむのかについて伝えたかったのだ。
私の修士論文は「青春の愛を形象化した現代朝鮮小説文学」についてだった。
ハン先生と論議した末、このテーマを選択した。理由は簡単だ。「首領様と将軍様の生涯」を描く「不滅の歴史」「不滅の導き」シリーズ全書は“政治的意味があり研究に値する課題”だが、私にとっては朝鮮の小説家ペク・ナムリョンの「友」のような庶民生活を扱う作品を読むほうが楽しい。
私はそんな普遍性を持つ朝鮮の作品を英語に翻訳し、研究を通じて英語圏に紹介できると思っていた。先生は幸いにもこのアイデアを好み、オーストラリア文学との比較も奨励した。それからさらに私は朝鮮の小説を読むことに没頭した。
先生とマンツーマンで行う「作品分析」という特別授業では、「青春の愛」を扱う作品を一つずつ読み、討論した。韓国でもベストセラーとなった「青春訟歌」(ナム・デヒョン作)もあったし、「野ばら」、「兵士の故郷」といった中長編小説、その他ハン・ウンビン、ロ・ジョンボブ、ソク・ユンギ、キム・ビョンフン、アン・ドンチュンなど北朝鮮文学界の重鎮たちが書いた小説もあった。
笑うたびに金歯を覗かせていた、とある先生の経歴は興味深かった。彼は金日成総合大学を背景にした映画シナリオを書いたことがあった。
この映画の主人公は北朝鮮のブラッド・ピットとも呼べるリ・ヨンホというイケメン俳優が演じた。先生によると、金日成総合大学の生活が「単調だったので」劇的なシナリオを書くのに苦労したという。
私は朝鮮に留学する前にこの映画を見たが、それを伝えると先生は驚いていた。映画がユーチューブに上がっていることを知らなかったからだ。もちろん、先生はユーチューブが何かを知らなかった。
いずれにしろ「作品分析」は私、が取った授業の中で最も面白かった。内容が面白かっただけでなく、先生も親切だった。一方的な講義ではなく討論が中心だったため興味が持ててたし、授業に参加しているという気分を感じることができた。
この授業は私の金日成総合大学の生活において、もう一つの楽しい思い出となった。
<文・写真提供/アレック・シグリー>