「マスク無意味」論からCDCの方針転換で「マスク必須」へ。マスクプロパガンダとは何だったのか?

CDCガイダンス変更の予兆

 このようなCDCによるガイダンスの変更は、突然行われたものではなく、その予兆はありました。筆者は、BBCとCNNを常時視聴していますが、BBCは明確にマスク無用キャンペーンを3月半ばまで行っていました*。 〈*新型ウイルスにマスクや手袋は有効? BBC番組が解説2020/03/04 BBC〉  しかし、筆者の記録ではBBCは、3月中旬から「顔を絶対に触るなキャンペーン」*を執拗にはじめていました。医療関係者のような訓練を受けていない人間が、顔を触らないようにすることはたいへんに難しく、感染対象である口、鼻、目を触らないようにするにはマスクやゴーグルが最も簡便でこうかはばつぐんな手段です。 〈*なぜ人は顔を触るのか 「生まれ持った」習慣を止める方法は?2020/03/16 BBCニュース〉  BBCは、日本、中国、韓国、台湾、香港などの極東の国々における、高性能不織布マスク着用率の高さ、とくに日本における街ゆく人々の殆どが高性能不織布マスクを着用している光景を頻繁に報じるようになりました*。とくにいまだにロックダウンをせずに、満員電車を運行している光景を極めて異様なものと報じると同時に殆ど全ての乗客が高性能不織布マスクを着用している様子を必ず報じています。 〈*マスクをする国、しない国 何が違うのか? 2020/03/26 BBC〉  筆者は、国策である林野行政の失敗によって本邦に蔓延する花粉症という公害病対策で近年高度に発達した本邦のマスク文化が先に述べた日本での新型コロナ感染症の深刻化を4-6週間遅らせている「謎々効果」の原因の一つとして着目されていると考えました。  そして3月31日(EST)のホワイトハウスにおける新型コロナウィルス対策タスクフォースの記者会見におけるCDCのガイダンス変更予告を皮切りにBBC World Newsでは布マスクの着用推奨を大々的に報じはじめ、4月3日(EST)のCDCによる正式発表を迎えました。  これを契機に世界の国々では、市民の外出時マスク着用義務化を含めマスク推奨と高性能不織布マスク(サージカルマスク相当)の街頭での無償配布などをはじめBBCによって報じられています。

マスクプロパガンダの原点

 詳細は次回にしますが、顔を触らないためには布マスク以上が、飛沫の通過を阻止するには最低限高性能不織布マスク(サージカルマスクに相当)の着用が極めて強く推奨されるのですが、BBCにおいても理屈が通らないマスク不要論が散々繰り返され、現在もWHOは撤回していません。4/22に放送されたBBCのHard TalkにWHOのDavid Nabarro氏が出演しましたが、やはり一般人にマスクは要らないと断言したものの、その後の司会者による追及に主張がずるずると後退していきました*。 〈*BBC World News – HARDtalk, David Nabarro – WHO special envoy for Covid-19 2020/04/21GMT〉  これらを見ると明確に分かるのは、N95マスクを一般人は使うな、医療関係者に譲れという主張がマスク無用プロパガンダの原点にあります。筆者はこれには賛同します。そもそもN95マスクは息苦しくて活動の支障になりますし、生産も限られていますので、訓練を受けた医療関係者に集中配分すべきです。  しかし、大量生産が行われ、日本など「マスク先進国」では国内生産も大規模に行われている高性能不織布マスクは、いくらでも増産が可能な上に患者を増やさないという大きな効果を持ちます。従って、医療機関への優先配分だけでなく、市中への大量流通が可能です。  高性能不織布マスクが一時的にでも枯渇した場合には布マスクを使うことも可でしょうが、布マスクを無理に流通させることには意味がなく、その程度ならばマフラーでもスカーフでも西部劇のギャングマスクでも顔を触らないための何かを顔に巻けばよいだけです。  結局の所、マスク無用プロパガンダは、医療資源配分政策を優先する余りに感染症予防における個人防護具の効果について市民に対して権威主義的に虚偽を流布してきたという極めて不誠実でくだらないことであると言えます。これを転換できたCDCと合衆国は偉大だと筆者は考えます。  最後に、筆者の考えをまとめ、次回以降、論じて行きます。 1)マスク無用プロパガンダは、医療資源配分政策と感染症予防を混同した虚偽であり、CDCによって完全に否定されている。既に全世界でCDCへの追従が始まっている 2)SARS-CoV-2パンデミック下において、市民は自分自身が感染者であるという前提でものを考え、他人に移さないように行動せねばならない。その為に最低限布マスクなどの着用は必須であるが、高性能不織布マスク(サージカルマスク相当)が好適である 3)顔を触らないために布マスクでもギャングマスクでもなんでも顔に巻けば「こうかはばつぐんだ」 4)飛沫感染防止には布マスクの「こうかはない」が、高性能不織布マスクの「こうかはばつぐんだ」 5)N95マスクを一般人が使う必要は無い。医療に全て回し、もしも仮に余裕が出れば介護・福祉、運輸・物流・小売り、行政の順で拡大すべき 6)高性能不織布マスクを医療機関から一般市民に至るまで不足なく潤沢に使えるようにすることが極めて重要 7)高性能不織布マスクについては、増産、輸入体制が確立しつつあり、本邦ではロックダウンを行えば医療機関から行政までと市民へ完全に行き渡る。ロックダウン中にさらなる増産体制を確立し、ロックダウン解除後の爆発的マスク需要増に備えねばならない ◆コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」新型コロナ感染症シリーズ3 <文/牧田寛>
Twitter ID:@BB45_Colorado まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中
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