シティ派のヤンキーが恐喝未遂で島流しの刑に <裁判傍聴記・第3回>

コカイン、MDMA、LSD……悪すぎるシバタ

 後日、シバタは2人を地元の公園に呼び出し、「次こういうことしたらどうするんだっけ? トンだら全員探し出すし、世田谷の奴らにも連絡してあるから」と再度恐喝。後輩2人がたまらず警察に駆け込み、逮捕に至ったというわけだ。シバタの言い分はこうだ。 「後輩が気に入らない態度を取った場合、10万円の罰金を払うという地元のルールがあった。当時は悪いことをした人間には何をしてもよいという考えがあった」  またシバタは、「コルク被っている奴らいるけどいいの? ぶっ飛ばせば?」と先輩から指示を受けたこともあり、あくまで地元のルールを守るつもりで犯行に及んだという。  さらにシバタはコカインの使用による、麻薬及び向精神薬取締法違反の容疑でも別件逮捕。今回は恐喝未遂とクスリのダブル裁判である。16歳から大麻を吸い始め、コカイン、MDMA、LSDにも手を出した。いちどは使用を止めていたものの、1年前に友人たちがコカインを吸っているのを見て、また日常的に使用するように。シバタ、悪すぎである。しかし、そんなシバタの情状酌量を訴えるべく、実の母が証言台にあがる。

「モモンガを可愛がるいい子でした」

 弁護士が法廷で見せたのは、小学校時代のリトルリーグの集合写真だった。シバタは中学校でも野球を続け、チームでのトラブルもなく、泥にまみれながら白球を追っていたらしい。いや、弱すぎる。情状酌量を訴えるための素材が弱すぎる。野球をやっていてもグレる奴はグレるし、中学までは野球が上手かったけど、高校に入って部活を辞めたなんてむしろ典型的な不良のパターンではないか。さらに実の母が追い打ちをかける。 「ペットとして飼っていたモモンガをとても可愛がる優しい子なんです。モモンガが亡くなったときは、泣きながらペット霊園に電話をかけて、お花を添えていました」  これはシバタ、非常に優しい。モモンガがいつ亡くなったのかはわからないが、外でLSDキメて恐喝して帰ってきたあとにモモンガを可愛がっていたとしたら、それはそれで怖くはあるが……。  しかし、2回の裁判を終え、3回目の判決にやってきたシバタは様変わりしていた。スーツ姿に革靴、髪は黒くなり、ジェルでパリッと七三分け。前回、前々回よりも明らかに姿勢がよく、真っ直ぐと裁判官を見据え、白目もしっかりと見えている。判決を前にシバタはこう語った。 「悪い友人との付き合いを断り切れない自分がいる。これではまた同じ生活に戻るだけなので、携帯電話を捨てました。今回の事件は先輩の指示で後輩を脅しました。今後、立場が下である人を脅している人がいたら、自分みたいな犯罪者になってしまうぞと、諭そうと思います。逮捕されて、被害者の調書というものをはじめて見ました。いままで自分の取っていた行動が相手にどんな苦痛を与えていたかがわかり、ハッとしました。今後、自分が同じ学校にいたら被害者の方は辛いと思うので、いまの学校は退学するつもりです」  最後に母は、「息子が移動手段として使っていた車は車検が近いので破棄しました。祖母の家が離島にあるので、当分は地元を離れて、その島で暮らしてもらおうと思っています」と裁判官に訴えかけた。判決は懲役2年6カ月、執行猶予5年。恐喝未遂とコカインのダブルパンチということで、さすがにお決まりの執行猶予3年とはならなかった。いまごろ、島でのんびりと暮らしているといいが、あまり泡盛を飲みすぎないようにしてほしい。 <取材・文/國友公司>
くにともこうじ●1992年生まれ。筑波大学芸術専門学群在学中よりライター活動を始める。著書に『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』(彩図社)。Twitter:@onkunion
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