次亜塩素酸ナトリウム(NaCl0)や次亜塩素酸(HClO)は、たいへんに強力且つ安価な漂白・殺菌剤です。とくに次亜塩素酸ナトリウムは、花王の商標、「
ハイター」としてよく知られており、極めて安価で潤沢に市中に供給されています。筆者はハイター類が大好きで、食器からお風呂まであらゆる場所でハイター類を使っています。
衛生管理の歴史は、塩素の工業化によって飛躍的に向上し、その中でも次亜塩素酸類は、大活躍をしてきています。カルキ(さらし粉)で知られる次亜塩素酸カルシウムCa(ClO)2は、水の消毒薬として人類に福音をもたらし、次亜塩素酸ナトリウムは、汎用の殺菌、消毒剤としてつかわれ、近年は次亜塩素酸も広く使われつつあります。
しかし次亜塩素酸類は、酸と反応して塩素を発生させます。
塩素は、人類初の毒ガス兵器と使われたほどに殺傷力が強くたいへんに危険です。次亜塩素酸類は、この塩素を安全に保管輸送する簡便な物質でもあり、水酸化ナトリウムに塩素を反応させることによって次亜塩素酸ナトリウムが合成され、これに塩酸などの酸を加えると塩素が常温常圧で発生します。
第一次世界大戦-イタリア軍:モンテサンミケーレ-1916年6月29日ガス攻撃後のイタリアの犠牲者
出典:イタリア陸軍歴史写真ギャラリー(CC BY 2.5)
次亜塩素酸の構造はH-0-Clで、次亜塩素酸ナトリウムはNa-O-Clです。
次亜塩素酸類は、基本的に酸性に大きく傾くと塩素ガスを発生します。人間の胃液は塩酸酸性でpH1*前後なので、
胃にはいった次亜塩素酸類は、体内で塩素を発生させます。
〈*pH:水素イオン指数で、7が中性で7より小さいと酸性、7より大きいとアルカリ性で0〜14の数値で示す。 出典:
Wikipediaより〉
また、
塩基性(アルカリ性)の物質は、基本的に生物組織を強く冒します。筆者は、特異体質なのか酸やアルカリを使っても全く肌荒れしませんが、基本的に強アルカリである
家庭用漂白剤を誤飲すると消化器系の粘膜が炎症を起こします。
弱酸性である次亜塩素酸水の場合は、肌が荒れないので飲んでも大丈夫という俗説がありますが、
次亜塩素酸水もpH2.5以下の強酸性では塩素を発生しはじめます。胃液はpH1前後ですので当然、塩素が発生します。
次亜塩素酸水の場合は、有効塩素濃度が10〜80ppm(ppmは百万分の一)とたいへんに低いので、
塩素が発生しても自覚症状がないだけで、有害無益な毒を胃の中で製造していることに変わりはありません。
近年は次亜塩素酸ナトリウムを塩酸で中和することによって製造する高濃度の次亜塩素酸(数百ppm〜数千ppm)が存在します。これは食品添加物としての「次亜塩素酸水」の定義に入らないので次亜塩素酸ではないと誤ったことを言う人がりますが、立派な次亜塩素酸です。単に「次亜塩素酸水」の法的定義*から外れるためにそのように呼称できないだけで、化学的には製法、濃度が異なるだけです。
〈*
次亜塩素酸水 厚生労働省〉
高濃度の次亜塩素酸は、例えば500ppmの製品ですと消毒薬としてかなり強力で、しかも弱酸性ですから手荒れを起こしにくいためにたいへんに便利ですが、
誤飲時の有害性は濃度が上がっただけ強くなります。
次亜塩素酸については、ウィルスへの有効性が定まっておらず、筆者が参考にしているノロウィルスへの有効性についての厚労省の報告書*では500ppm程度の高濃度次亜塩素酸でなければ効果がないとしているものの、80ppm程度の次亜塩素酸水でも効果があるという厚労省報告もあり、十分に慎重である必要があります。新型コロナウィルスのような命にかかわるものを相手にする場合、
基本的に安全側(より確実な側)に判断を振る必要があります。
〈*
ノロウィルスに対する塩素系消毒薬の効果 平成 27 年度ノロウイルスの不活化条件に関する調査報告書 国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部 五十君 静信 野田 衛 上間 匡pp.14より〉
なお、次亜塩素酸ナトリウムの場合は、500ppm(キッチンハイターの100倍希釈液)でコロナウィルスに対して十分な効果があるとされており、医療機関などでも汎用消毒剤として紹介されています。
いずれにせよ、例え次亜塩素酸水が食品添加物として認められていても出荷時点で食品への残留しないことが求められており、
次亜塩素酸水を飲むことが安全であるという担保ではありません。おなかの中で塩素が発生することは変わらないのです。
次亜塩素酸ナトリウムを飲んでおなかが痛くなったM氏は、数日おなかの具合がよくなかったようですが、幸いにも回復し、今は全く元気なようです。ただその後の話で、なんと
亜塩素酸を次亜塩素酸と誤認していたことが分かりました。典型的な伝言ゲームの失敗例ですが、亜塩素酸(O=Cl-OH)、事故事例での25%亜塩素酸ナトリウム(O=Cl-ONa)ではどうだったのでしょうか?
結論は、
死にます。
まず亜塩素酸は、強酸性雰囲気では分解して塩素を発生します。胃は強酸性です。次に亜塩素酸はメトヘモグロビン血症を起こしてチアノーゼで死ぬことがあります*。
いくら呼吸しても酸素を運ぶ赤血球が破壊されるので窒息してしまうのです。新型コロナ肺炎並みに悲惨な死に方をします。
〈*
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会 Injury Alert(傷害速報)No. 40 ウイルス除去と称されている製品による中毒〉