「総理、これ会見と呼べますか」と問いかけた記者が語る、沖縄メディアの「覚悟」の根源<阿部岳氏>

あれが記者会見と呼べるか

―― 3月14日の首相記者会見で、阿部さんが「総理、これ会見と呼べますか」と問いただしたことが話題になりました。阿部さんは沖縄タイムスの記者ですが、なぜあの日の会見に参加したのですか。 阿部岳氏(以下、阿部): 私があの会見に参加したのはたまたまです。3月10日から福島に行っていたのですが、そのとき知り合いの記者から首相記者会見があることを知らされました。そこで、福島から会見への申し込みを行ったという経緯です。  私が首相に質問したかったのは、コロナ対策というより、記者会見のあり方です。その前の2月29日の記者会見は本当におかしかった。首相は予定時間の大半を一人で喋り続け、記者の質問に対しては予め用意された回答を読むだけでした。しかも、江川紹子さんが「まだ質問があります」と言っていたにもかかわらず、会見を打ち切って私邸に帰ってしまった。私は記者の一人として強い憤りを感じました。そのため、なぜ国民の命に関わることを決めながら質疑から逃げるのか、そういうことを聞きたいと思っていたのです。  実際に会見に参加してみると、やはり首相が具体策もなくただ延々と喋り続けるだけで、正直に言うと集中を維持するのが大変でした。その後、首相はいくつか質問に応えると、また会見を打ち切ろうとした。だから私は「まだ質問があります」と声を張りあげたのです。私は周囲から浮くことを覚悟していたのですが、周りの記者たちも私と同じように抗議をしていた。やっぱりみんなおかしいと感じていたのです。それで、あの場にいた記者たちの気迫に押され、思わず「これ会見と呼べますか」という声が出たのです。 ―― あの会見で声をあげたのは、阿部さんやフリージャーナリストなど、官邸とあまり付き合いのない記者たちです。官邸記者クラブの記者は阿部さんたちに戸惑い、迷惑がっているように見えました。 阿部:まず事実として官邸クラブの一部の記者も「まだ質問があります」と食い下がっていました。また、朝日新聞はあの会見の前、官邸側から質問内容を尋ねられたが、それに答えなかったと紙面で明かしています。これはすごく画期的なことです。  私があの場で声をあげることは、気後れはしますが、大したことではありません。私は日ごろ官邸で取材をしているわけではないからです。それに対して、政治部の記者たちは毎日官邸で取材しなければならないですし、上司にもメモもあげなければなりません。「外から来てワーワー騒ぐのは簡単だ」と言われれば、それはまったくその通りです。  だからこそ朝日新聞の記事は、いつも取材している官邸を敵に回すものですから、勇気ある一歩だと思います。まだ小さな一歩かもしれませんが、私は敬意を持っています。
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民衆が「表現の自由」を勝ち取った沖縄
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