「僕は明朝でもアリだと思うんですけど、この書体をそのまま使うとカナの部分がパーッと広がって
字間が埋まっていない感じがしてしまうんです」(A氏)
デザインをやっていると思われる人たちのSNS上での指摘でも、最も多かったのは「
字詰めしていないのではないか?」というもの。
「文字の間隔を詰めてバランスを調整する、カーニングっていうんですけど、それをしているとは思えない。これは想像ですけど、看板屋の若い人がテキストで打ったものをそのまんまのせたような、フラットな状態としか思えないですよね」(C氏)
字詰したらこうなる! 同じヒラギノ明朝体を使っても字詰めを調整するだけでイメージが変わってくる。それを考えるとデザインしているとは思えない仕上がりだと3人は声を揃える
デザインとして発注したものとは考えられないというのが3人の総意である。
「そもそもデザイナーだったら既存のフォントをそのまま使うことはないですよ。元がわからないくらいにいじってデザインします。デザイン料をもらっているわけですからね」(C氏)
正面左上の看板も同じ文字で作られているようなのだが、こちらはバックライトで文字が浮かび上がっているため、スタイリッシュな仕上がりに
既存のフォントをそのまま使うのであればクライアントとしてもモリサワなどのフォントメーカーにお金を払えば済む話になってしまうということ。
「ちなみにプレゼンのときに案はいっぱい出しているはずなんです。もしかしたらそのときにちゃんとデザインしたものもあったけど、それとは別にダミーで作ったもの、要するに本命のデザインを通すために入れた“誰も選ばない”はずの案が通っちゃったのかもしれないですね。
立場の上のほうの決定権を持つ人が『コレいいね。僕はコレが好きだな』とか言い出して、現場の誰もが『マジかよ!?』と思いながらも、仕方なくそれで進められるパターン……ホント、あるあるですよね(笑)」(B氏)
デザイン業界でなくてもあるあるな話だが……想像ではなく妄想になってきたので、お話はこのくらいにして。
3人のデザイナーに明朝体のままで、ダサくなく、見やすいデザインにしてもらったのが下だ。
「元はカタカナが横に広いので、もっとキュッとしていて見出しに使う明朝にしました」(A氏)
どうだろうか? これに正せとまでは言わないが、交流の拠点にするべく思いを込めてゲートウェイという名を冠した駅の玄関口に掲げられた看板なのだから、’24年の本開業までにもう少しシュッとして見やすいデザインに変更していただきたいものである。
フォントが変われば印象は変わる。もしも[高輪ゲートウェイ駅]が……
3人のデザイナーにいろいろなフォントで「高輪ゲートウェイ」をコラージュしてもらった。国鉄時代に手書きの駅名標から作られたスミ丸ゴシック体はとても親しみのある感じになる。
・国鉄時代にあったら……スミ丸ゴシック体風
・京急電鉄の駅だったら……京急駅名標書体風
・通りの名前だったら……Rounded M+体
・スナックだったら……TB 赤のアリス Min2 B体
<取材・文・撮影/上野充昭>