エイリアンの支配と傀儡政権への反抗を描くSF映画『囚われた国家』、より楽しむための「3つ」のポイント

2:クモの巣のような複雑な作劇にこそ意味がある

 『囚われた国家』は「エイリアンから逃げ惑うハラハラドキドキ」のような、わかりやすいパニック映画的なエンターテインメント性を期待すると、正直に言って期待外れになってしまうかもしれない。それは「物語や要素が複雑化していて全体像が把握しにくい」というためでもある。
© 2018 STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.

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 何しろ、たくさんの登場人物の視点が何度も入れ替わり、彼らがそれぞれ具体的に何を考えているかは“その時点”では観客にはわからないことも多いのだ。「1人の主人公をずっと追って感情移入をさせる」という通常の作劇に慣れていると、大いに戸惑ってしまうだろう。(そのため、公式サイトに掲載されている人物相関図を頭に入れてから観るのもオススメだ)  しかし、その特殊な作劇も完全に意図的なものであり、要素を1つ1つじっくりと観察すれば、それぞれに大きな魅力があること、またそれぞれが有機的に“つながっていく”ことに気づける、ということは明言しておこう。  例えば、前述した兄弟以外にも、もう1つ大きな物語の軸が存在する。それは、シカゴ警察特総司令官の太った男と、その古い付き合いである娼婦との関係性だ。ネタバレになるので詳細は伏せておくが、この2人にはとある“秘密”が隠されているのである。  他にも、テロ計画における連絡、準備、決行に至る複雑なプロセスは緊張感たっぷりに描かれている。『影の軍隊』(1969)と『アルジェの戦い』(1966)というやはりレジスタンスを描いた戦争映画に影響を受けたとのことだが、有名どころで言えば『大脱走』(1963)にも近い「作戦決行までの仕込みを追う」という面白さもあると言えるだろう。  そして、前述した“その時点”ではわからなかった登場人物の意図、そして物語の全体像は、終盤になってやっと把握できるようになっている。「まるでクモの巣のように絡みあった人間関係や物語を理解していく」という本作の物語構造は、「どの“つながり”にも意味がある」という普遍的な真実、はたまた人間の“業”のようなものも浮かび上がらせていことになる。  なんとも一言では言い表せない、改めて複雑な内容なのであるが、その“モヤモヤ”も含めてこの『囚われた国家』の魅力だ。物語を振り返れば、「あの時のあれはこうだった」「この時のこれはこうだった」と、様々な思想に浸れることだろう。  なお、わかりやすいエンタメ性を期待すると期待外れかもしれないと前述したが、ビジュアルは低予算であることを感じさせないリッチなものであり、そこだけでも大いに楽しめるということも付け加えておく。ミシガン湖上を浮遊する巨大な岩石型の宇宙船や連立する機動兵器は鮮烈な印象を残すし、何よりエイリアンそのものの造形と“襲い方”がすさまじく、そこを切り取ればホラー映画としか思えない恐ろしさもあったりするのだから。

3:『猿の惑星:創世記』でもわかる“噛み合ってしまった歯車”から学べること

猿の惑星:創世記 本作を手がけたルパート・ワイアット監督は、『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』(2011)というハリウッド大作で高い評価を得ていた。こちらを観ておくと、より監督の作家性と物語の本質を知り、より『囚われた国家』が面白くなるということにも触れておきたい。  『猿の惑星:創世記』は、SF映画の古典『猿の惑星』(1968)の単なるリメイクではなく、そこから着想を得た“新たな物語”であり、新たな3部作の起点となった映画だ。関連作品を観ていなくても全く問題なく楽しめる、万人向けのエンターテインメントである。  その基本的なプロットは、高い知能を持つ猿が人間に育てられるが、ある出来事のせいで保護施設に送られてしまい、そこから何とかして脱走し、人間への反逆行為に転じていくというものだ。初めは“子育てもの”で、次は“脱獄もの”、そして『囚われた国家』と同様の“反抗ものSF”の要素までもある盛りだくさんな内容であり、誰もが次々に押し寄せる見せ場とサスペンスに圧倒されるだろう。  そして、『猿の惑星:創世記』および『囚われた国家』の劇中で起きている出来事の全てが、いくつかの歯車が“噛み合ってしまった”結果として起こっているということが重要だ。社会では様々な人物の思惑が複雑に交錯しており、それらが絡み合うと取り返しのつかない悲劇につながることもある……そんな普遍的な事実と、“起こりうる未来”を警告している。そもそもSF作品は完全な絵空事などではなく、現実の社会の先にある未来を描くことがほとんどなのだが、この2作ではそれが特に顕著なのである。  まるで、「こういう未来もあり得るから、こうならないように1人1人が何ができるか考えてみようよ」と、監督に問われているかのようだ。そうした内省を促してくれるということも『猿の惑星:創世記』と『囚われた国家』(およびSF作品全般)の大きな魅力であり、やはり現実の世界が大変である今にこそ観てほしいと思える理由なのだ。  ちなみに、その『猿の惑星:創世記』には、まさに恐ろしいウイルスがパンデミックする“兆し”も示されているという、今に観るとさらにタイムリーな要素もあったりする。配信サービスのHuluで、続編の『猿の惑星: 新世紀』(2014)と『猿の惑星: 聖戦記』(2017)も鑑賞できるので、ぜひ合わせて鑑賞してみてほしい。 <文/ヒナタカ>
雑食系映画ライター。「ねとらぼ」や「cinemas PLUS」などで執筆中。「天気の子」や「ビッグ・フィッシュ」で検索すると1ページ目に出てくる記事がおすすめ。ブログ 「カゲヒナタの映画レビューブログ」 Twitter:@HinatakaJeF
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