被収容者に手錠をかけて拘束。密室で行われる入管の暴力

この暴行事件は「氷山の一角」!?

 
日本人妻のHさんと抱擁

デニズさんは2019年10月にも2週間だけ仮放免され、迎えに来ていた日本人妻のHさんと抱擁した

 裁判は今まで2回の口頭弁論が行われただけだが(デニズさんは外出許可がもらえず出廷できない)、2回目の12月19日、裁判後に大橋弁護士が集会を開催し、そこで初めて筆者らは映像を目の当たりにしたのだ。その衝撃的な映像に、大橋弁護士は「このままでは、入管の収容施設はアブグレイブ刑務所のようになってしまう」と語った。  アブグレイブ刑務所とはイラクにある刑務所で、イラク戦争で米軍が捕虜にした旧政権側関係者に対し、看守役の米兵数人が、複数の捕虜を裸にしてピラミッド状の山を作ったり、犬をけしかけたりなど、肉体的、精神的な虐待を行ったことで世界を震撼させた。  少なくとも入管施設は密室であり、誰が何をしようともそこからの情報が出てくることはめったにない。だが今回、それが明るみに出たことで、関係者は「これは氷山の一角に違いない」と思っている。  映像が公開されたその夜には、早速共同通信が編集した映像をネット配信した。  これを見た一人がデニズさんの日本人妻であるHさんだ。実は筆者もHさんも、デニズさんとの面会で幾度も暴力を受けたことは聞かされていた。だが正直、あそこまでの人間の尊厳を壊されるほどの暴力とは思ってもいなかった。  翌日、Hさんから電話が入った。Hさんは相当なショックを受けていた。 「映像を見ました。見ている途中で、私の愛する人がこんなひどい目に遭っていたのかと思ったら、体がブルブル震えて、昨夜は一睡もできませんでした。今も、メールしようにも指が震えて文字を打てないので電話しました。彼は大声を出して薬を求めただけ。それが、ああいう扱いになるのでしょうか」  ただ、筆者もHさんもある共通の感想を抱いていた。それは、デニズさんがあの複数の職員の暴力に屈しなかったことだ。もし筆者ならあの場でおとなしくなり、「はい、はい」と指示に従うと思う。だがデニズさんは制圧されているときでも、何度も「なぜ、あなたたちは私に暴力をふるった!」と声を上げ、ひるまなかった。怒鳴り返されても質問をやめなかった。  Hさんは電話の最後にこう言った。 「あの映像を見て、私は彼を誇りに思いました」

入管「不当行為ではあるが、違法行為ではない」

デニズさん仮放免

デニズさんは2019年8月に2週間だけ仮放免された。緊急記者会見で1月の制圧事件について話し、職員に手首を曲げられたことや後ろ手をねじられたことを再現した。今回の映像でそのことが証明された

 デニズさんの勇気があったから、裁判を起こし、映像提出も実現したのだ。これで入管の姿勢が少しでも改まれば、デニズさんの行動に価値はある。  一方の牛久入管は、今回の事件については以下の見解を表明している。 「不当行為ではあるが、違法行為ではない」  そのどちらかは裁判所が判断することになるが、筆者には素朴な疑問がわく。それは、牛久入管がなぜ裁判に不利となるこの映像を敢えて提出したかである。内部にも、このままの体制ではよくないとの良心が働いたのだろうか?
「理由あり」と回答

1月の制圧事件について、デニズさんは「不服申立」をしたところ、入管は、デニズさんの訴えについて「理由あり」と回答した

 12月26日。筆者は牛久入管総務課を訪ね職員にそれを尋ねた。だが職員は「裁判はどちらも公平な立場で行うものです。だから、資料提供を求められれば、資料がある限りは提出する。それだけです」と回答し、資料提出には総務課の判断も入っているのかと尋ねても「詳細は申し上げられません」と回答するだけだった。  ただ、筆者が信じたいのは、制圧映像では横柄な態度を取る職員もいたが、あのような非人道的な対処を行うことで心を痛めている職員も必ずいるはずだということだ。  入管制度は改めなければならない。被収容者、そして職員の尊厳を守るために。 <文・写真/樫田秀樹>
かしだひでき●Twitter ID:@kashidahideki。フリージャーナリスト。社会問題や環境問題、リニア中央新幹線などを精力的に取材している。『悪夢の超特急 リニア中央新幹線』(旬報社)で2015年度JCJ(日本ジャーナリスト会議)賞を受賞。
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