学歴なしでも過酷な競争を勝ち抜いた人、「自由があるだけマシ」と言う脱北者、短命に終わったKpopアイドル……。それぞれが見る韓国社会
韓国映画『パラサイト/半地下の家族』がアジア映画として史上初のアカデミー賞4部門を受賞し、韓国の存在が一躍、世界に轟いた。同映画は韓国社会の深刻な貧困問題を描き、観る者に衝撃を与えたが、そこでも描き切れないほどに実際の韓国社会には闇が溢れている。その惨状は一部で「ヘル朝鮮」と揶揄されるほどだ。そんな八方塞がりの韓国の実態を詳しくお伝えする。
日本以上に格差が広がり、貧困からの脱出は容易ではないが「天地が崩れても這い出る穴はある」という同国の諺どおり、成功した人々もいる。
不動産投資で大成功し悠々自適な毎日を送っているキム・ファンジンさん(仮名・58歳)は40歳のときに大企業を退職、10年前に日本の宅地建物取引士にあたる資格を取得。当時の李明博政権が不動産政策としてソウルの再開発をしきりに進めるのを見て地価が高騰すると踏み、いくつかの土地と物件を購入すると予想どおり爆上がりした。現在の資産額は7億円ほど。大学生の息子と娘には、それぞれ3000万円程度のマンションを買い与えた。
「今の若者は生きづらいから、せめてもの応援としてね」(キムさん)
一方、若者も負けてはいない。’17年に発行された『韓国の若き富豪たち』という本では無一文から成功した61人の若手起業家の事例がまとめられている。また、硬直した社会構造をテクノロジーが壊すのは韓国に限った話ではないが、YouTuberの成功者も多い。ロシア圏向けYouTuberで月に最高約300万円を稼ぎ出す20代女性の「kyunghaMIN」は幼い頃から海外を転々としたので「組織に属して働く自分を想像できなかった」と話している。皮肉にも「学歴を積み大企業に入るのが最善」という価値観から抜け出すことが、成功に繫がる印象だ。
しかし、そんな韓国の若者に苦言を呈する人もいる。
「正直、韓国の若者は高望みがすぎるかもしれません」と話すのは、脱北者のイ・ジヨンさん(仮名・29歳)。北朝鮮の貧しい漁村に生まれたイさんが通っていた中学校ではしばしば、政府に上納するため各自1㎏分の銅を供出させられていた。しかしそんな資金はなく、提出できなければ徒歩で片道40分もかかる自宅に帰らされ、入手するまで戻ることが許されない。そんな日々に疲弊し、イさんは14歳で中退。家計を支えるため一日16時間釣り竿を作る作業をしたが稼いだのは日本円にして約600円。「米1㎏買えるか買えないかという程度」だった。
脱北のきっかけは、母親の勧め。当初は迷ったが、「夢も希望もなく、この先数十年も同じ生活を続けていくと思うとゾッとした」という。
そして’16年、渋る父を残し母と兄とともに中朝国境の鴨緑江を船で渡り脱北。現在はソウル市内の大学で経営学を学んでいる。同級生は皆イさんよりも一回り年下だが、彼女にとって人生で初めての青春を過ごしている。韓国のほかの若者と同じく就職難の憂き目に遭うのでは?という問いには「ここは移動も、言論も、通信も自由。たとえ給料が低く、希望の職種に就けなかったとしても、少しでも自分の力が生かせれば、それ以上望みません」と話す。北朝鮮の惨状と比べれば、韓国の若者の苦境は贅沢な悩みなのかもしれない。
「それでも這い出る穴はある」格差社会を勝ち抜いた人々
同世代の脱北者はもっと厳しい生活を……
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