品種やブランドにもよるが、クリスチャニアではマリファナのジョイントが1本800以下で購入できる。プラスチックの容器に入っているので、クリスチャニアの地域外へ「テイクアウト」する人も少なくないのだとか(写真は友人Mの提供)
屋台に近づくと、立っている店員……というか売人が「何をお求めですか?」と声をかけてくる。
ドラッグの強弱から効き具合まで、細かに説明してくれるのだが、この間、
周囲では普通に人々が行き来している。なんともシュールな光景だった。
お値段は細長いプラスチックの容器に入ったマリファナのジョイント1本で、50デンマーククローネ。日本円にして800円以下だ。まるで
ホットドッグを買うような感覚でドラッグが手に入ってしまう。
ただ、
デンマークではマリファナなどのドラッグは違法だ。クリスチャニアでは2004年まで大麻が合法だったそうだが、今でもこのような地区が存在しているのは、いったいどういうわけなのか。
「もともとクリスチャニアは軍の所有地だったんです。しかし、軍が去ったあとの1971年に、著名なジャーナリストを筆頭に
ヒッピーやアナキスト、不法居住者が住み込み始め、独自のルールが支配するコミュニティが形成されました。
これまで何度か
政府が閉鎖しようとしたのですが、その度に住民の猛烈な反対に遭って断念しています。クリスチャニアを閉鎖したら、コペンハーゲン中で暴動が起きますよ(笑)」(M)
前出のとおり、クリスチャナはかなり広く、中には湖や
学校などもある。周囲はコペンハーゲンの市街地や、ロックフェス・コペンヘルで知られる造船所の跡地、屋根の上に人工スキー場があるゴミ処理場やマリーナなど、観光スポットも多い。
そんな
「一等地」に人々が住みつくうち、「無法の世界」が作り上げられたのだ。コペンハーゲンではほかにも、季節労働者がそのまま住みついた住宅区画や、若者が不法に住みつくようになったことで、いつの間にかライブホールになってしまった建物が点在しているという。
これらは
不法に占拠され、ドラッグの売買などももちろん違法だ。しかし、一方でそれを
強制的に排除することも法律的には難しいという。こういった感覚は「お上がすべて」の日本ではなかなかイメージしづらいが、人々の
自治精神や法律が機能しているからこその捻れとも言えるだろう。
先進的な社会制度で知られる北欧諸国だが、こういったコミューンが多くあるという一面にはあまり光が当たることはない。コロナウイルスのパンデミックが収まり、北欧へ旅する機会があれば、是非足を運んでその目で確かめてみてはいかがだろう。
<取材・文/林 泰人>