次に任命責任について考えていく。
日本国憲法68条1項に「内閣総理大臣は、国務大臣を任命する」と規定があり、大臣の任命は首相の専権事項とされている。そのため不祥事を理由に閣僚が辞任した場合、必ずと言ってよいほど、野党は首相の任命責任を追求する。現在の野党に限らず
民主党政権の時、野党であった自民党も行なっていた。
第2次安倍政権になってから、
安倍首相が国会で閣僚の任命責任について触れたのは46回。そのうち、
「任命責任は私にあります」と明言したのは38回。そして、
安倍首相が具体的な任命責任をとったのは0回だった。
また、まるで自身の指導力を誇示するかのように
「任命責任は私にあります」と38回も国会で明言していたにも関わらず、不可解なことに安倍首相は、2019年4月12日の参議院本会議を最後に、国会で任命責任を追求されても同発言を一度もしていない。その代わりに「私が任命した大臣が就任から僅か一か月余りで相次いで辞任する事態となったことは、国民の皆様に大変申し訳なく、任命した者としてその責任を痛感しております」と発言内容を変えている。安倍首相本人ではないので発言内容を変更した理由は定かではないが、去年の10月に、立て続けに2人の大臣が政治とカネ問題絡みで辞任し、これまでのような発言を続けるといつか自身に追求が飛び火すると考えたからなのかもしれない。
さらに安倍首相は、2014年10月30日の衆議院予算委員会において「(閣僚2名が辞任したことについて)任命責任者であるまさに私の責任である、このように痛感をしております。そこで、私の責任とは何かといえば、まさに今、我が国の前には問題が山積しているわけであります。いまだデフレ脱却は道半ばであります。アジアの安全保障状況は厳しさを増しているわけでございます。こうした山積する課題にしっかりと立ち向かっていく、問題を解決していくために全力を尽くしていく、政治に遅滞があってはならない、このように考えているところであります。」と答弁しており、安倍首相は新しい閣僚を任命し政策を進めることが任命責任を果たすことであると考えているようで、同様の発言を繰り返している。
しかし安倍首相が考える上記責任は、
内閣として政策を進めていくという執行責任であり任命責任ではない。「政治とカネ」問題を原因として辞任した大臣へ対する首相の任命責任とは、違法な行為をした疑惑のある人間を大臣に任命したことであり、責任を果たすために取るべき行動は疑惑のある人間を、しかるべき場へ呼び説明責任を尽くさせることだ。安倍首相はこれまで38回も「任命責任は私にあります」と明言してきたのなら口だけでなく、妻陣営の公職選挙法違反で辞任して以降、未だに国民へ対しての説明責任を果たしていない河井克行元法相を国会へ呼び、自身の任命責任を果たすべきだ。
<文/日下部智海>