すべてを諦めさせられた韓国の若者が最後に縋ったもの。元信者に聞く、新型コロナ禍発信源となった新興宗教「新天地」の内情<2>

元「新天地」信者の若者たち。皆20代だ

「教団の外は地獄」が怖くて罰金払っても居続ける

 新天地を長年取材している韓国YTNニュースアンカーのピョン・サンウク氏は、オーマイニュースの取材に対し、同教団を「韓国社会の矛盾が集約されている場所」と指摘している。ピョン氏は、「若者が新天地に殺到する4つの理由」として、以下の4つの点を指摘した。 ①自己効力感 ②埋没費用の法則 ③トンネルビジョンの罠 ④希少性モデル である。(出典「Oh My News」)。  これらは自己の能力を発揮できる満足感、支払った労力への執着、情報が限定されることによる視野狭窄、「自分は特別である」という優越感を指す。新天地は、若者たちのこうした欲求を満たしているのだという。  各種報道では、信者は献金を要求されるとある。24歳の元信者も、このように語る。  「1年間で新規信者を一人も獲得できなければ、罰金110万ウォン(約9万8000円)。払えなくてやめた人もいますが、大多数の人が払います。私も払いました。『天国である教団から一歩でも外に出たら、永遠の地獄が訪れる』と言われるので、怖くて罰金を払ってでも在籍しようとするんです」  これも、埋没費用の法則に該当するだろう。

若者の好みを30年間研究し尽くしている新天地の勧誘手法

 新天地の勧誘手法は現在ほとんどが解析され対策されているが、未解明の部分もまだ多い。韓国基督教異端相談所九里教会のウェブサイト、ほか元信者の発言などによると、おおよそ以下のパターンが明らかにされている(以下、既出情報を元に筆者が整理)。 ・街頭アンケートを持ちかけ心理テストを行い、結果は後日伝えると言って繋がりを持つ ・各種セミナーや市民講座の形式を取って勧誘 ・大韓イエス長老会など、他の教会の名を騙って接触 ・社会人サークルや大学の同好会を通じて接触 ・ネット上の映像や書き込みなどによる布教 ・「神託があったから」などと言って接触 ・妊娠、休職などで在宅中の人を訪問 ・幼なじみや古い知人などの縁者に、偶然を装って接触  接触の際は大手企業やマスコミ各社などの名刺を用いたり、有資格者など社会的信用のある人物を装う。そうして4〜5人、時には数十人体制で数ヶ月をかけてターゲットの身辺に入り込み、気づくと周囲の人脈がすべて新天地だったキムさん(前回登場)のようなケースもある。ターゲットの趣味趣向を把握し、それに合わせた催しやサークルを作って誘い出す。また、行きつけの教会の牧師が新天地に入信した場合、そこが新天地の拠点となってしまうのだという。  奇しくも映画『パラサイト』を彷彿とさせる光景だ。  「若者が好きそうな恋愛、就業、演劇、美術、音楽、スポーツなどによる勧誘方法を30年間研究し尽くしている。悩みが多い人へのメンタルケアも充実している」(前回登場のキムさん)  そして頃合いを見て「聖書の勉強をしてみないか?」と誘い、各地にひっそりと設けられた「福音房」と呼ばれる小部屋で聖書の勉強をさせ、プライベートな悩み相談なども行って心理的に離れられなくする。その後、韓国内に1270か所ほどあると言われている通称「センター」で1日3時間ずつ週4日、6〜7ヶ月間さらなる聖書の学習が義務付けられる。これを修了し、上役に認められると晴れて正式な入信となる。  入信まで負担が多いように見えるが、センターで詰め込み式教育をされる点が大きなポイントだ。努力を認められることにより、自己効力感が満たされるのである。
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新型コロナがなくても、もとから不健康な環境だった
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