震災が変えた子どもたち・教職員の意識 福島の教育現場で何が起きたのか

「教える」から「学ぶ」への転換

味原正美氏

味原正美氏

味原:「『何を学ぶか』『どのように学ぶか』『何ができるようになるか』『その成果をどう評価するか』が大事ではないかと考えています。生徒自らが獲得できることまで、教え込もうとしていないか。『「教える」から「学ぶ」へ授業づくりはじめの一歩』と題したリーフレットを発行し、『生徒の学ぶ姿』を大切にした単元構想を提案しています。具体的には次の4つです」  ・課題に興味・関心をもつ  ・まず自分なりに考える。考えを表現する  ・自分の考えを多角的に問い直す  ・自分の考えや学んだことを振り返る 山口:「なるほど、トップダウンではないボトムアップの巻き込み型の教育ですね。それは、とりもなおさず、校長先生、教頭先生といった管理職のあり方の変革にもつながる話ですね」 味原:「山口先生にお世話になり始めた2016年度は福島県では『教職員人事評価制度』が本格実施になった年でした。人事評価は、評価結果にばかり目がいきがちですが、教職員の能力開発という視点を特に大切にしなければならないという意味の考え方が示されています。    『校長のためのマネジメント講座』の閉会の挨拶では、モチベーションの向上、合意形成・対立解消手法・ハンドリング力などの演習を行いながら、主体的に動くからこそ身につくことがあるというメッセージを送っていました。『教員が主体的に動くよう「心に火をつける」ための有効なスキルですよ。教員に限らずどの職場でも共通ですよ』と山口先生の講義・演習を振り返っていました。管理的なことの他に、教員を巻き込む力、教員を育成する力が必要ではと考えています」 山口:「校長先生、教頭先生と演習していますと、率先して発言されたり、モデル話法を発表されたり、まさにアクティブラーニングに慣れ親しんでいらっしゃることが伺えます。アクティブラーニングが児童・生徒にどのような変化をもたらしましたか」 味原:「『ふくしま高校生社会貢献コンテスト』が『福島の高校生が日本を元気にする』と題したパンフレットを作成し、ボランティア、復興、国際交流、まちおこし、製品開発など予選を通過した12グループによるプレゼンテーションが行われました。  また、福島県地域学校活性化推進構想を2019年に県教育委員会が発表し、教科書だけではなく、地域と連携した教科横断的な学習を取り入れながら、社会に開かれた教育課程を編成することを目指しています。    これらのように、児童・生徒ともに、地域を学びのフィールドと捉え、地域の課題を知ることを通じて、子どもたちが自分にできることを主体的に考え実践していることが多くなってきました」

教職員の働き方にも変化

山口:「今回、私が是非、お伺いしたかったことがあります。普通の状態でも忙しい教員という職務にあって、震災・復興に直面してきた、福島県の先生方は多忙を極めていらっしゃるのではないかと拝察しています。マネジメント講座の参加者からもそのような声を聞きます。一方で、働き方改革を実現し、先生方もさらに生産性を高める取り組みをされていることと思います。働き方改革の取り組みについて、是非、お聞かせください」 味原:「2019年の『学校における働き方改革に関する取組の徹底について』の通知をふまえ、福島県教育委員会でも『教職員多忙化解消アクションプラン』が改定されました。それぞれの職場で何ができるかを話し合い、合意形成し、職場全体を巻き込んでボトムアップで解決しようとすることが、大切なのではと考えています。  日本の強みは『人的資本』である日本人そのものであり、そのために『教職』は、志す価値のあるやりがいのある仕事であることを、児童生徒に伝えていきたいと思っています」

 <対談を終えて>

 さまざまな業種、職位、職務、地域のビジネスパーソンに集まっていただき、リーダーシップ実践力発揮のための演習プログラムを実施した。いわばスキル訓練の他流試合で、とかく印象評価にとどまりがちなスキルレベルや成長性、能動性などの能力要素をスコア化する。参加者のひとりだった味原さんは、日本を代表する企業グループの役員や管理職を上回るトップクラスのスコアをはじき出した。  とかく教員は浮世離れしていると言われるが、福島の先生方は違う。味原さんのスコアに、震災、復興に立ち向かう中で、アクティブラーニングを実践してきた証をみた。(モチベーションファクター株式会社 山口 博) 【山口博[連載コラム・分解スキル・反復演習が人生を変える]第179回】 <文/山口博>
(やまぐち・ひろし) モチベーションファクター株式会社代表取締役。国内外企業の人材開発・人事部長歴任後、PwC/KPMGコンサルティング各ディレクターを経て、現職。近著に『チームを動かすファシリテーションのドリル』(扶桑社新書)、『クライアントを惹き付けるモチベーションファクター・トレーニング』(きんざい)、『99%の人が気づいていないビジネス力アップの基本100』(講談社+α新書)、『ビジネススキル急上昇日めくりドリル』(扶桑社)がある
1
2
ひとつの質問で合意形成できる! ビジネススキル急上昇 日めくりドリル

ひとつの質問で、合意形成できる! 1日1問で確実にデキるようになる! 年間100社・5000人、20年以上実践してきた能力開発プログラム

バナー 日本を壊した安倍政権
新着記事

ハーバービジネスオンライン編集部からのお知らせ

政治・経済

コロナ禍でむしろ沁みる「全員悪人」の祭典。映画『ジェントルメン』の魅力

カルチャー・スポーツ

頻発する「検索汚染」とキーワードによる検索の限界

社会

ロンドン再封鎖16週目。最終回・英国社会は「新たな段階」に。<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

国際

仮想通貨は“仮想”な存在なのか? 拡大する現実世界への影響

政治・経済

漫画『進撃の巨人』で政治のエッセンスを。 良質なエンターテイメントは「政治離れ」の処方箋

カルチャー・スポーツ

上司の「応援」なんて部下には響かない!? 今すぐ職場に導入するべきモチベーションアップの方法

社会

64bitへのWindowsの流れ。そして、32bit版Windowsの終焉

社会

再び訪れる「就職氷河期」。縁故優遇政権を終わらせるのは今

政治・経済

微表情研究の世界的権威に聞いた、AI表情分析技術の展望

社会

PDFの生みの親、チャールズ・ゲシキ氏死去。その技術と歴史を振り返る

社会

新年度で登場した「どうしてもソリが合わない同僚」と付き合う方法

社会

マンガでわかる「ウイルスの変異」ってなに?

社会

アンソニー・ホプキンスのオスカー受賞は「番狂わせ」なんかじゃない! 映画『ファーザー』のここが凄い

カルチャー・スポーツ

ネットで話題の「陰謀論チャート」を徹底解説&日本語訳してみた

社会

ロンドン再封鎖15週目。肥満やペットに現れ出したニューノーマル社会の歪み<入江敦彦の『足止め喰らい日記』嫌々乍らReturns>

社会

「ケーキの出前」に「高級ブランドのサブスク」も――コロナ禍のなか「進化」する百貨店

政治・経済

「高度外国人材」という言葉に潜む欺瞞と、日本が搾取し依存する圧倒的多数の外国人労働者の実像とは?

社会