スポーツ紙のオッズが書かれたページと、ある日の投票用紙
しかし、このサッカー賭博は完全な違法行為である。それでもタイでサッカー賭博による逮捕者はほとんど聞かれない。それは裏の仕組みがあったからだった。
このサッカー賭博の胴元は地域ごとにいて、一般人は胴元の手下である商店やバイクタクシーの運転手などから投票用紙をもらい、賭けていく。用紙には対象期間の試合がプリントされ、オッズもわかりやすく書かれてある。ルールは簡単で、何点差でどちらが勝つ、といった内容があらかじめ用紙にあるので、そこにマークしていけばいい。そして、3試合を予想し、すべて当たるとオッズ通りの配当が入るという仕組みだ。
ギャンブラーに話を聞くと、このサッカー賭博の配当金に遅延はない。規定の日(多くが対象期間終了翌日の夕方)までにどんなに高額だろうと支払われる。だから、みんな安心して賭けるのだという。
そして、安心して賭けることができる「裏の理由」として、大きな理由がある。それは、胴元が官憲の一味であることも少なくないからなのだ。
地域によって胴元が違うので場合によってはマフィアグループだったりもするようだが、警察が見て見ぬふりをしてくれるので安心というわけだ。
というわけで、ギャンブラーの間では、予想外の大穴が出た試合の夜は飲酒検問が厳しくなるということがまことしやかに語られている。胴元が損失を取り戻すため、バーで観戦していたギャンブル勝者たちを捕まえて、罰金として金を巻き上げるという。あくまでも噂だが……。
ちなみに、このサッカー賭博の賭け金は自由設定だそうだ。だが、先に紹介した用紙は1枚につき最大で8万バーツ(約28万円)までの配当しかもらえないという。そのため、もっと賭けたい人用に1試合のみ予想するタイプもある。こちらの賭け金最低額は500バーツで、配当に上限はない。身の破綻をする人はこちらを選択しているケースが多いという。
熱が入りすぎた人が調子に乗って大金を注ぎ込み、すべてを失ったために開き直って強盗などの犯行におよぶこともある。なにせ相手は官憲かマフィアなのだから払わなければ身の危険もあるのだ。しかし、これで潤っているギャンブラーもいるし、官憲がバックにいるというのも公然の秘密なので、サッカー賭博がなくなることはない。一般市民にとっては自暴自棄になった人の凶行のリスクだけが降りかかってくるのだ。
<取材・文・写真/高田胤臣>