『ふたつの日本』望月優大 書影
■『ふたつの日本』(望月優大著・講談社現代新書)
ルポタージュは個人に焦点を当て、当事者の肉声を伝えることができる。ただ、それだけでは全体像を把握することができない。そこで読みたいのが本書だ。
著者は日本の移民文化・移民事情を伝えるウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」の編集長。現場取材もしているが、本書ではあえてルポタージュの手法をとらず、外国人に関する日本の制度や統計データを丁寧かつ分かりやすく読み解くことで、外国人問題の全体像が俯瞰できるようになっている。一例をあげよう。
〈現実はといえば、どの定義を選ぶのであれ、日本に「移民」は存在するし増え続けている。「移民」ではない、「移民政策」ではない――どんなにその呪文を唱えても、この現実事態が変わることはない。最も分かりやすいのは、政府自身の「移民」の定義に最も近い「永住する外国人」の数の推移を見ることだ。……1992年に4万5229人しかいなかった(一般)永住者の数は、25年後の2017年には16倍以上の74万9191人になった。政府が公表している「永住許可に関するガイドライン」によれば、永住権の申請には原則として10年以上の在留が条件となる(例外あり)。日本で長く暮らし、永住権を取得する外国人が増え続けている。彼らを「移民」と呼ぶか否かに関わらず、これは現実である〉(24~25頁)
2018年6月時点で約246万人いる在留外国人のうち、3割は永住外国人なのだ。本書には、このように目から鱗のデータが満載されている。特に印象的だったのは、以下の指摘だ。
〈同じ日本に暮らしていても、国籍によって、在留資格によって、この国で通過する経験は大きく異なる。……何年滞在できるか、働くことができるか、働き先を変えることができるか、家族と共に暮らすことができるか、一人ひとりが違う。同じ「外国人」でもその境遇は大きく異なる。……日本で日本国籍を持って生まれた自分のような人間は、この国で享受可能なフルスペックの権利と自由を持っているとも言える。期限なく日本に滞在できるし、働くこともできる。転職も自由だし、家族と共に暮らすことができる。……日本で「日本人」であるということはそうした最大限の権利を持っているということを意味する。勤め先から解雇されて国を出るように促されることもないし、退去強制の憂き目に遭って突然収容されることもない。〉(208頁)
この一文を読んだ時、日本人と外国人の間にある境界線が見えた気がした。読者は虫の目で木を見るのではなく、鳥の目で森を見るように外国人問題の全体像を俯瞰できるだろう。図表やグラフも多いため、「読んで分かる」だけでなく「見て分かる」こともできる一冊だ。
紹介したい書籍は他にも多くある。いずれ紹介したい。
◆ルポ 外国人労働者第6回
<取材・文/月刊日本編集部>