新型コロナウイルス禍で不安定化する社会の中、誤った情報に惑わされないために
突如発生した、新型コロナウイルス。中国の感染者は7万人、死者は2000人を超え、日本でも感染者が拡大を続けるなかで、様々な情報が錯綜しています。
こうした不確かな状況下にあるときほど、人は「みんながやっているから大丈夫だろう」という根拠のない意思決定を下す傾向にあることが、アリゾナ州立大学の教授で社会心理学者のロバート・B・チャルディーニ教授によって指摘されています。本稿では教授の著書、『影響力の武器』誠信書房より、誤った情報に惑わされることなく、理性的な行動をとるコツをご紹介したいと思います。
「みんながやっているから大丈夫だろう」という心理。これをチャルディーニ教授は「社会的証明」と呼びます。これを妄信した結果、大きな悲劇が生まれた例を2つご紹介しましょう。
1964年3月、ニューヨーク州のクイーンズ区でキャサリン・ジェノヴィーズという女性が、深夜仕事から帰る途中、自宅近くの路上で暴漢に襲われて殺害されました。
『ニューヨーク・タイムズ』の記者、A・M・ローゼンタールはこの事件を調べていくうちに、驚くべき事実を目の当たりにすることになります。なんと、死亡したキャサリン・ジェノヴィーズは35分の間に3回も犯人に襲われ、その間ずっと彼女の悲鳴が周辺に響き渡っていたにも関わらず、この事件を目撃していた38人の市民たちはその惨状をただ眺めるだけで、事件が終わるまで一人として警察に通報した人はいなかったのです。
事件後に調べられたこの38人の市民は、決して意地悪な人たちでもなければ、極端に他人に無関心な人たちでもなく、文字通り「善良な」市民たちでした。にも関わらず、何故誰も通報するというアクションを起こさなかったのでしょうか。
この不可解な出来事をチャルディーニ教授は「社会的証明」を使って説明します。例えば道に倒れている男性は、心臓発作を起こしたのかもしれないし、ただの酔っ払いかもしれません。隣の家から聞こえてくる叫び声は、子供が虐待を受けているとも考えられる一方で、ただ兄弟がじゃれ合っているだけとも考えられます。
こうした不確かな状況で私たちがあてにするのは、「他の人がどう振る舞っているか」です。暴漢に襲われているように見えても、他の誰も駆けつけたり、慌てふためいたりしている様子がなければ、「誰も関心を払っていないのだから、おそらく大丈夫なのだろう」と思ってしまうのです。
1978年11月18日、南米ガイアナで、「人民寺院」と呼ばれるカルト教団が集団自殺を図り、実に918人の人々が命を落とすというショッキングな出来事が起こりました。
1955年にアメリカでジム・ジョーンズによって創設されたこの「人民寺院」は、それまでサンフランシスコなどを中心に活動していましたが、1977年に突如として、指導者ジム・ジョーンズによって、信者たちは南米のガイアナにあるジャングルの未開地に移住させられ、そこで彼らは共同生活を送ることになります。
そして翌年、同教団による人権蹂躙の疑いがあるとの告発を受けて、アメリカ下院議員のレオ・ライアンら4人が教団を査察に訪れますが、これに反発した一部信者がこの4人を襲撃、全員を殺害するという事件が起こります。
この事件を知り、未来を悲観したジム・ジョーンズは、全信者に集団自殺することを提案しました。そしてこの提案通り、信者一人一人が、粉末ジュースにシアン化合物などの毒物を混ぜたものを飲み、次々と死んでいったのです。
生き残った人々の証言によると、死亡した918人のうち、毒を飲むこと拒んだのは数人で、大半の信者が整然と、自ら進んで毒を飲み、死んでいったと言います。
人混みの中で起きた殺人事件
900人以上が進んで集団自殺
1
2
ハッシュタグ