大学入試の未来はどうなるのか ―第3回検討会議の内容と委員の腹積もり―

各委員の発言の要旨はこれだ

 それでは、団体代表の各委員の発言の内容の要点を紹介しましょう。 萩原委員:高等学校の立場から  「大学入学共通テストにおいて、英語民間検定試験を利用することは地域格差・経済格差の問題、公正・公平性など様々な不安を感じており、見直しを要望してきた。4技能の評価が必要ならば、各大学もしくは大学入試センターで実施すべきである」との発言がありました。また、検定試験で英語力が上がるのかと疑問を投げかけ、都立西高校での取組を紹介し、さらに、都道府県により取組に温度差がある実情を述べました。 吉田委員:私立高等学校の立場から  これまでの文科省の様々な文書を抜粋し、40ページ以上にわたる資料でこれまでの検討の経緯について確認をしました。 「2013年の教育再生実行会議第四次提言で1点刻みの入試からの脱却など理念が掲げられ、その後の2017年の生徒の英語力向上推進プランでオリンピックに合わせた2020年にゴールが設定された。記述式に問題が生じるきっかけとなったのは、2017年の実施方針作成にあたって大学で採点を行う案を大学側が拒否し、センターが採点することになったからだ。また、英語民間試験については、早期から検定試験対策に追われるとの懸念に配慮したため、高3の4月から12月の間に2回までという制限をつけたことが問題である。これまで決まったことに合わせて頑張ってきた教師や生徒たちが大変気の毒であり、新学習指導要領実施時に合わせた導入に向けて検討したい」との発言がありました。 岡委員:国立大学の立場から 「入試は本来アドミッションポリシーに基づいて各大学が選抜するものである。これまでにいろいろな課題があることを指摘し、具体的な内容と方法を示すように求めてきた。英語の4技能評価は重要であると考えるものの、スピーキングテストを実施することは非常にハードルが高い。記述式については既に個別試験で課している」といった発言でした。 柴田委員:公立大学の立場から 「同じ公立大学でも様々な意見があり、必ずしも一枚岩ではない。多くの大学では個別試験で記述式を実施している。共通テストで記述式を導入したことは画期的だったと考える。英語の成績提供システムは大きなメリットがあったので、4年後にぜひ導入してほしい」といった発言でした。 芝井委員:私立大学の立場から 「改革の理念に対しては理解を示したい。大学生のうち78%は私立大学に通うが、センターを利用した入学者は定員のごく一部であり、非常に少ない。小論文や調査書など多様な背景を評価しており、各大学の判断でセンターを利用しているので一律ではない。検定試験の活用も私大の方が進んでいる。2年前周知のルールが破られたことは受験生に対する大きな罪である。矛盾のない制度設計をしてほしい」といった発言でした。

定員管理や条件付き記述式について

 この発表に対する質疑応答・意見の主な内容は以下の通りでした。 1.定員管理の厳格化の中で段階別評価は使えるのか(末冨委員)という質問に対しては、可能であるとの回答(岡委員、柴田委員)や定員管理の厳格化がおかしいという意見(芝井委員)でした。 2.条件付き記述式で能力が測れると思っていたか(両角委員)という質問に対しては、否定的な意見(芝井委員、柴田委員、岡委員)ばかりでした。 3.民間試験と学習指導要領との整合性の確認方法への質問(末冨委員)に対しては、事務局より後日説明するための準備をしているとの回答がありました。 4.萩生田文科大臣は英語民間試験について、4月から12月の間に複数回選べないような試験があるなど、制度上問題があることは否めなかったと述べられました。  この会議では、英語の民間試験、数学と国語の記述式についてはまだ入り口にたどり着いた段階ですが、確実に前に進めてくださる委員もいるようですので今後の動きにも注目していきましょう。次回の会議は2月28日に開かれます。 <取材・文/清史弘>
せいふみひろ●Twitter ID:@f_sei。数学教育研究所代表取締役・認定NPO法人数理の翼顧問・予備校講師・作曲家。小学校、中学校、高校、大学、塾、予備校で教壇に立った経験をもつ数学教育の研究者。著書は30冊以上に及ぶ受験参考書と数学小説「数学の幸せ物語(前編・後編)」(現代数学社) 、数学雑誌「数学の翼」(数学教育研究所) 等。 
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