新型コロナウイルスの影響でMWC中止。実は「ウイルス以外の理由」も……!?

主催者側の思惑に反して政府の考えは……

 ともあれ、主催者側は経済面ではなく、この展示会に関係したすべての人たちの健康面と安全面を優先するとした。それが同時にこのイベントへの信頼を維持することになるという姿勢だ。  しかし、それに対して、スペイン政府のイリャ保健相は健康面での問題はないと指摘し、カルビーニョ経済相もスペインの衛生保健のレベルは非常に優れていることを挙げた。カルメン・カルボ第一副首相に至っては「MWCの中止は保健衛生面による恐れからではない」と断言して、中止の本来の理由が別の所にあることを仄めかしたのである。(参照:「El Independiente」、「Libre Mercado」)  主催者側が期待していたのは、スペイン政府またはカタルーニャ州政府など公的機関がコロナウイルスの感染を懸念しているという不安を表明して欲しかったのである。そうすれば、保険会社は開催中止の要因は健康面を重視した余り主催者は開催の中止を余儀なくさせられたと判断して出展社からブースの確保で支払われた前金の返金を保険が補填してくれることになる。ところが、スペイン政府も州政府もそれを認めるとスペインの保健衛生のレベルを国際的に疑われるようになり、寧ろスペインの保健衛生は万全で開催しても感染を心配する必要はないという姿勢を表明したのであった。  そのため、主催者側は2月13日に出展社の方でこれまでにかかった費用は自社で負担するようにと表明するという結果になった。即ち、主催者側はその費用の負担は一切行わないという考えを表明したのである。(参照:「El Pais」)

主催者側はもうスペイン開催にこだわりなし!?

 この問題は主催者側と展示会場の組織委員会の方で恐らく法的解決を迫られるようになるはずである。  法的解決を避けて双方の交渉によって解決を図って行くとなった場合は、主催者側が有利な立場にある。2023年までバルセロナで開催するという契約になっているが、それを反故にして別の都市で開催する可能性を仄めかすことができるということ。実際、カタルーニャの独立問題の影響で被害を受けて来た主催者側では仮にバルセロナが暴動化して開催できなくなることを配慮してポルトガルの首都リスボンでの開催の可能性も選択肢としてもっていたということ。選択肢としてドバイとパリも候補に挙がっていた。マドリードもこの開催を望んでいるが、主催者側ではバルセロナを去る場合は、スペイン以外の別の国での開催を望んでいるようだ。(参照:「OK Diario」)  主催者側にとってMWCの開催を望んでいる都市の選択には困らないのである。なにせ、バルセロナにとってはMWCの開催は毎年5億ユーロの収入が見込めるということ。バルセロナにある4万室のホテルの大半が開催期間中に埋まってしまう。今年は11万人の訪問客を期待していた。大勢の訪問客で開催期間中は1万4000人の臨時雇用が創出される。タクシーも売上が3割アップする。ハイヤーの運転手も1500人が臨時に雇われる。レストランも潤う。僅か4日間であるがバルセロナが好景気に見舞われるのである。主催者側と法的に紛争の解決が拗れてこの一時的ではあっても好景気を犠牲にする意向はスペイン側ではないはずだ。(参照:「El Diario」)  ただ、メディアや関係者の間では、主催者側は来年から別の都市で開催する可能性は十分にあると噂になっている。その為の契約を破棄してチャージを払ってもバルセロナでの開催には主催者側ではもう飽き飽きしているというのが本心らしい。 <文/白石和幸>
しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身
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