タイ全土を震撼させた軍人による銃乱射立てこもり事件。事件の背景に横たわる「タイの暗部」

事件が起きた「コラート」という都市

事件時は陸軍によりここが完全封鎖

展望台から見下ろした幹線道路。事件時は陸軍によりここが完全封鎖された

 この事件で日本人の被害は報道されていない。しかし、多くの日本人が犠牲になる可能性を秘めていたと言っても過言ではない。  というのは、第1の都市はバンコクで、タイ第2の都市は北部の古都チェンマイだと思っている外国人は少なくないが、タイ第2の都市はこのナコンラチャシマー県だからである。  ナコンラチャシマー県=コラートはバンコクから道のりでおよそ300キロくらいにある、タイ東北地方の玄関口に当たる。県面積や人口はバンコクの次に多いとされ、チェンマイよりも規模が大きい県になるのだ。  チェンマイは季候がいいことから日本人の年金受給者などに人気があり、確かに在住日本人の数はコラートよりも多いだろう。しかし、日本の有名企業を始めとした大手グローバル企業がこの10年くらいでコラート郊外に次々進出しているため、日系企業の駐在員などの日本人居住者がコラートにも増えている。そのため、危険にさらされた日本人もいたはずだ。  事件が起きた「ターミナル21コラート」は、2016年12月ごろにオープンしたばかりの商業施設だ。タイ好きには聞き覚えがあるだろう。1号店はバンコクの中心地にあるからだ。このコラート店は2号として開業し、東北地方の街にとっては場違いなほどファッション性の高い施設として大人気となった。  要するに、地方都市の若者が集まる一番人気のスポットでこの虐殺とも言える大事件が発生したのである。

事件が浮き彫りにした「タイの暗部」

 この事件はタイの暗部を浮き彫りにしたものであると、筆者は感じた。  まず、在タイ外国人、あるいは東南アジアに住んでいる外国人なら知っていることではあるが、タイは公務員の給料が安い。そのため、多くの人が副業をしている。今回の事件も上官の手先となって不動産売買に奔走していたが、対価をもらえなかったことに容疑者がキレてしまい、犯行におよんだとされる。  タイも公務員の給料は法で階級ごとに設定されていて、一番下っ端だと1万バーツ(約3.5万円)ももらえないくらいしかなく、警察長官でも数万バーツといった具合だ。  今回容疑者を射殺した特殊部隊はバンコクから派遣されたという。この部隊ではなく、人質救出を主な任務にする特殊部隊の給与を聞いたことがある。ときには人質や仲間のために自分が盾になるかもしれないという重い任務から、訓練は厳しく、副業も許されない。そのため、その部隊に入隊すると給与+特別手当で6万バーツがもらえるそうだ。死ぬかもしれないリスクが高いのに、わずか21万円ほどだが、この金額なら命をかけられるに相当する、ということで彼らは任務に誇りを持つ。  それでも公務員という職は人気があるのだ。実は日本とは違って、安定を求めているのではない。いつか金持ちになりたいと野心を持つ人が少なくないのだ。給料が少ないのに? と思われるが、警察や軍隊の幹部は「権力」を手にすることができ、それを利用して「利権」を獲得して儲けていく。  東南アジアの警察官や軍人は賄賂をよく要求する。交通違反時などがそうだが、懐に入れていると思われがち(もちろんそれも一部にはあるが)ではあるものの、タイ警察の場合、その賄賂の大半は実は上官に流れているという。その上官もまた上に流し、人事でより利権がある場所に配属になるよう根回しに使うのだ。  今回の事件の容疑者はどういった理由で上官の副業に関わっていたのかはまだ不明だが、権力をかざして理不尽を要求した上官に積もりに積もった不満が最悪の形で爆発したことは間違いない。
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仏教国タイで「射殺」が行われた理由
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