ただし、論文が間違っているということで、
潜伏期の人からの感染が起こらないという意味ではありません。米国国立アレルギー感染症研究所所長アンソニー・フォウチ博士は、潜伏期に感染は起こると信じているといいます。そして「私は中国の同僚の一人に電話をしました。彼は非常に尊敬されている感染症の科学者で、潜伏期に感染すると確信しています」と言います。
しかし、仮に感染するとしても、「
潜伏期の感染は、全体的な流行において重要ではない可能性が高い。咳やくしゃみをする人はウイルスを拡散する可能性が高い」とWHOは述べています。
現在、WHOは世界的な健康上の緊急事態と宣言し、中国への旅行と貿易の制限を課すことを各国に警告しています。ただし、ワシントンポストに対して、WHO事務局長テドロス・アダノム・ゲブレイェサス氏は、「
そのような制限は、公衆衛生上の利益がほとんどなく、恐怖とスティグマを高める可能性があります」と言います。
武漢の海鮮市場が新型コロナウイルスの始まりではない!?
さて、新型コロナウイルスの始まりとして、
武漢の海鮮市場に注目が集まっていますよね。ところが、2020年1月24日のランセットの報告で、大規模な中国の研究者チームは、その仮説に疑問を投げかけています。実は、
ウイルスは他の場所で、最初に人に感染した可能性があるのです。
中国の保健当局と世界保健機関の報告によると、
2019年12月8日に最初の患者が症状を発症しました。そして、ほとんどの症例は1月1日に閉鎖された武漢の海鮮市場に関係していると主張します。感染のアウトブレイクが始まった時、主な公的な情報は武漢市保健委員会からの通知でした。1月11日の通知では、診断が確定した患者は41人と言及し、1月18日まで患者数は同じでした。通知には海鮮市場が発症の始まりとは記載されていませんでしたが、人から人への感染の証拠はなく、ほとんどの場合は市場に関連していると繰り返し述べました。
ランセットの報告では、新型コロナウイルスの感染症と診断された最初の41人の入院患者についての詳細を提供しています。
2019年12月1日に最初に感染が確認された患者は、海鮮市場には関係ありませんでした。さらに、
41人の症例のうち13人が市場には関与していませんでした。
1月26日のサイエンス誌に、ジョージタウン大学の感染症専門医師ダニエル・ルーシー博士は、新しいデータが正確であれば、感染してから症状が発症するまでの間に潜伏期間があるため、最初のヒト感染は2019年11月に違いないと述べています。もしそうなら、12月下旬に市場からの症例が発見される前にウイルスは武漢の人々とおそらく他の場所の人々の間で静かに広がった。「ウイルスが市場から出る前に、ウイルスが市場に侵入しました」「ランセットのデータは、中国が提供した初期情報の正確性についても疑問を投げかけている」とルーシー博士は主張します。
ランセットの著者の1人で肺の専門家でもあるキャピタルメディカル大学のビン・カオ博士は、「ScienceInsider」にメールで、カオ博士と論文の共著者らがルーシー博士からの「批判に感謝する」と書き、「今では、シーフード市場がウイルスの唯一の起源ではないことは明らかです」「しかし、正直に言うと、ウイルスが今どこから来たのかはまだわかりません」と言います。
以上、新型コロナウイルスについての新たな知見です。この連載でも、新たな情報をアップデートしていきます。
<文/大西睦子>
内科医師、米国ボストン在住、医学博士。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部付属病院血液・腫瘍内科にて造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。08年4月から13年12月末まで、ハーバード大学で、肥満や老化などに関する研究に従事。ハーバード大学学部長賞を2度授与。現在、星槎グループ医療・教育未来創生研究所ボストン支部の研究員として、日米共同研究を進めている。著書に『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)、『「カロリーゼロ」はかえって太る!』(講談社+α新書)、『健康でいたければ「それ」は食べるな』(朝日新聞出版)がある。