反応度事故を生じさせないことは、軽水炉技術の極めて重要なものですが、反応度事故が生じたときに原子炉を速やかに事態終息させることは多重防護の原則から同等に重要なことで、ピンホールのあいた浸水燃料は、事態を大きく拡大させる最悪の代物です。
このため、運転中に燃料棒が損傷し、FPが冷却水中に漏出した場合は、原子炉の運転を取りやめることになります。これは設備利用率を下げますので、電力会社はしばらく様子を見て冷却水中の放射能濃度の推移をしばらく見極めます。そして、ピンホールがあいたと考えられる場合、原子炉は停止され、点検前倒しとなります。
当然ですが原子炉運転事業者は、燃料集合体のピンホールなどの異常にはたいへんな労力を使ってファイバースコープや耐放射線カメラによる目視検査や放射能漏洩の検査を行い燃料集合体の健全性維持に大きな労力とお金を払っています。
このように燃料集合体の健全性は、原子力安全の根幹を支えるもので、ぶつけたり、ものをSFPに落としたりすることは起こしてはならないことです。
燃料集合体は、たいへんに高価なものですから基本的に燃え尽きるまで燃やすことになります。従って、経済的な側面からも燃料集合体は丁寧に、慎重に扱わねばなりません。
この部分は、石川迪夫(いしかわみちお)氏による
『原子炉の暴走―臨界事故で何が起きたか』( 日刊工業新聞社) が、一般向けの入門書としてたいへんにわかりやすいです。関心があればご一読ください。素晴らしい名著です。
筆者は、原子力安全の根幹を支え且つ、経済性の鍵である燃料集合体を「ラックに乗り上げさせた」という報を聞いたときにたいへんに驚きました。脇見か何かをしていない限りあり得ないことですし、それを阻止するために複数の人間で操作、監視する作業です。
今回のインシデントが直ちに問題を起こすことはありませんが、燃料集合体が損傷すると電力会社は経済的に大損するだけでなく、もしも仮に見落としでピンホール燃料が装荷されるとそのうち運転中止に追い込まれます。最悪の場合、反応度事故の際に原子炉炉心が大破することもあり得ます。
軽水炉技術は、インシデントの可能性を一つ一つ摘み取って行くことで成り立っています。今回のインシデントに際し筆者は、「現場はどうなっているのだろう?」と不安になります。
この様な重要インシデントの背後には多くのヒヤリ・ハット事故が存在することはハインリッヒの法則から明らかで、本来ならばこのようなインシデントが起こるまでにヒヤリ・ハットの段階でインシデントを摘み取らねばなりません。
Accident triangle(ハインリッヒの法則)
筆者は、今回のインシデントを中層の第二層に相当すると考えている。
国鉄では330運動という、ハインリッヒの法則に基づいた事故防止活動を全社挙げて行っていた。
image via Wikimedia Commons(Public Domain)
四国電力には、きちんと人的、物的、経済的資源を十二分に投入して、インシデントの原因を完全に解明し、万全な対策を行うことを求めます。そしてこの経験を全原子力事業者で共有し、人類に還元することが求められます。それが原子力を利用するものの義務です。BWR陣営の二の轍は踏んで欲しくありません。
次回は、すでに概説しました外部電源喪失重大インシデントについてより詳しく論じます。
◆伊方発電所3号炉第15回定検における重大インシデント多発(3)
<文/牧田寛>