「お客さんをポジティブな気持ちにして人生の後押しをする」
――この作品でHIKARIさんが観客の皆さんに伝えたかったことをお聞かせください。
HIKARI:18歳で留学のために単身渡米しましたが、その時は映画を作るなんて考えたこともありませんでした。自分が映画監督や脚本家をやっていること自体が奇跡的なんです。
1作目の『Tsuyako』を2011年に製作した時に感じた自分のミッションは、世の中の人々の考え方をポジティブなものに変えていくことだということです。『Tsuyako』は、戦後のレズビアンの話だったのですが、世界を巡って上映した時に感じたのは、世界中どこに行ってもお客さんが感動するシーン、泣くシーンは同じでした。それだけ誰しもが抱えているものがあるということなんですね。
イタリアでの上映会の直後に、40代の男性がやってきて「これから家に帰って母にカミングアウトをする。勇気を与えてくれてありがとう」と言ってくれました。
そういう姿を見ると、お客さんをポジティブな気持ちにして人生の後押しをすることが自分のやるべきことなんだと思えました。
――映画はそれだけの力を持ちうるということですね。
HIKARI:この作品の主人公ユマもびっくりするぐらいポジティブです。もちろん、嫌なことに遭遇するシーンも出てきます。でもそれは彼女の人生の一部なんです。
人生には選択をしなくてはならない時があります。Aを選ぶかBを選ぶか、何も選ばないでその場で静止しているか。何も選ばなかったら何も始まらないですよね。
今の自分を変えたかったら、何かを選んで前に進まないといけない。自分がポジティブに変われば出会う人たちも変わってきて、また新しい道が開ける。そういうことを伝えたかったんです。
――現在のご自分につながる過去の経験がありましたら教えてください。
HIKARI:失敗も泣いたことも含めて過去に経験したことの全てがつながっていますね。失敗したことの方が多いので、今では大きなスタジオの社長が来てもビクともしません(笑)
女優をしていた時代も含めてですが、映画の仕事は話が決まりかけたと思ったら流れることも多いです。そうした部分も含めて自分の肥やしになっていますね。物事はなるようにしかならないんですね。
日本を出た時には「好きなことだけやって生きていきたい」と決めていましたが、まさか映画を撮ることになるとは想像もできませんでした。いろいろやってみて、今の自分があるんです。
――今後取り組んでみたいことはありますか?
HIKARI:今回は「障害者の性」を描きましたが、今までも、LGBTや人種の違う人たちの恋愛など社会的なテーマを扱ってきました。今後もそうしたテーマには取り組んでいきたいと考えています。
また、映画製作とは関係なく、貧困や虐待されている子どもたちなど厳しい状態にある子どもたちで音楽やアートの才能があったり、関心のある子たちをサポートしたいと考えています。子どもたちを支援する組織とコラボレーションして何かできたらいいですね。
<取材・文/熊野雅恵>
くまのまさえ ライター、クリエイターズサポート行政書士法務事務所・代表行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、自主映画の宣伝や書籍の企画にも関わる。
監督・脚本:HIKARI
出演: 佳山明、神野三鈴、大東駿介、渡辺真起子、熊篠慶彦、萩原みのり、宇野祥平、芋生悠、渋川清彦、奥野瑛太、石橋静河、尾美としのり/板谷由夏
2019年/日本/115分/原題:37 Seconds/PG-12/配給:エレファントハウス、ラビットハウス/ (C)37 Seconds filmpartners
挿入歌:「N.E.O.」CHAI <Sony Music Entertainment (Japan) Inc.>
2020年2月7日、新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー