しかし、なぜ輸入規制をするアルベルト・フェルナンデス新大統領がナイキにとって障壁になるのか。それは、ナイキのビジネススタイルにある。
アルゼンチン市場で圧倒的強みをもっているのがスポーツシューズである。年間で700万足を販売している。ナイキの履物の多くはアジアからの輸入である。それをパーツで輸入してアルゼンチン国内でアッセンブルして完成品にしている。アッセンブルといっても二つに分割された状態で輸入し、それを国内で完成品にさせるのである。
つまり、ナイキは履物を年間2500万足輸入しているのだ。その79%がスポーツシューズだ。ナイキが成長したのは2006年から履物、特にスポーツシューズで販売が伸展したからであった。
ところが、景気の低迷に伴って販売も落ちた。昨年10月にはナイキが輸入したパーツをアセンブルして完成品にするのに委託している現地企業ダス(Dass)社が400人を解雇するということが明るみになった。元々、1400人を抱えていた企業であったがこの4年間で80%の従業員を解雇したのである。その後も僅かの解雇が続き、現在240人が残っているだけであるダス社そのものが閉鎖を決めたようだ。理由は、ダス社の生産品の95%をナイキに納めていたということなのであるが、最近はナイキからの注文が70%落ち込んでいるということから会社の経営を維持して行くことが困難になっているからである。
現在ナイキが検討しているのは、撤退するにあたって自社ブランド製品をどのようなルートでこれからもアルゼンチン市場で販売を継続させていくかということだとしている。第3者に販売代理権を与えるということで、それを1社だけに絞るのか複数の企業に販売代理権を与えるのか検討しているようだと同紙は伝えている。
ナイキはアルゼンチンから撤退したとしても、これまでの販売シェアーは維持したいと望んでいるのであろう。その為に販売代理権を現地の企業に与えるための検討を今後も続けて行くと目されている。
もっとも、ナイキはまだ公式には撤退を表明していない。しかし、電子紙『
Infobae』は今月25日付けで信頼できる情報筋からの情報だとして、ナイキのアルゼンチン市場からの撤退はほぼ確実だとしている。
今後の行方が注目される。
<文/白石和幸>