さて、以上の発言にいくつか説明をしておきます。
萩生田大臣の発言の中の
数字のマジックについてですが、今回新しい資料として、国立大学と私立大学のどのくらいが民間試験を利用したかを表したものが提示されました。その中の一つを説明します。
その資料によると、令和元年10月25日の段階で国立大学82大学の民間試験利用が78大学(95%)だけあるとされていました。その時点ではこの95%という数字が使われて議論されていました。しかし、
78大学の中には学部あるいは学科の1つでも民間試験を利用していれば、その大学全体が民間試験を利用している大学とカウントされているのでこれでは実態に合いません。
そこで、今回は選抜区分数の割合を発表しました。その結果、同じ日(令和元年10月25日)の段階で、国立大学82大学の選抜区分数3857(推計)中民間試験を利用している選抜区分は2010(52.1%)であり、95%からは程遠い数字であることがわかりました。民間試験を推進していた人たちは、意図してこの95%を利用してきた可能性もあります。
なお、令和2年1月8日の段階では民間試験を利用する大学は47大学(57.3%)となり、まだ半分が利用するのかと思わせるものの、
選抜区分では13.3%に激減していることとなりました。
今回の
資料の「発掘」は大臣の指示によるもののようですが、まだまだ埋もれている資料や誤った使い方をしている資料もあることでしょうから、今後の
大臣のリーダーシップが期待されます。
英語の4技能については、会議では4技能は必要であることは程度の差はあれ認める流れでした。しかし、問題は、
4技能が試験で測ることができるものなのか、試験で測るべきものなのか、そして、それほどまでに必要ならば、なぜ大学に進学しない高校生にも測らないのかということです。これは、委員の中からも指摘がありましたが、「
大学入試を変えて、高校教育を変えようとするのはおかしい」という考え方にもつながります。いつまでも「4技能は必要だ」とだけ主張するようでは、話が噛み合わなくなるでしょう。
最後に会議の進め方についてです。次回の会議は、2月7日ということですが、
1か月にほぼ1回のペースでは1年間でどれだけ進むでしょうか。また、文科省での会議は、いつも
予定されていた時間通りにピタっと終わります。これでは、なかなか進みません。
今回の会議では、前回の失敗を反省し、理念だけではなく実務の方も検討すべきですが、
これだけの重要なことを決めようとしているのに、なぜ毎週会議を開こうとしないのでしょうか。「そんなに委員を招集することはできない。委員にも都合がある。」というのであれば、集まることのできる人を委員にすればよいのです。今回の委員を否定するわけではありませんが、まだまだ力になれる専門家は多くいます。
文科省は、これまでも、最初にデッドラインを先に決め、その日が近づくと、「間に合いませんからこの案(文科省側が用意した案)でいきましょう」といって、委員に考える時間を与えずに自分たちの案を推し進める手段をとってきました。今回の委員の中にはそれを心配する委員もいました。
今回の委員にはあらかじめ資料を作成して臨むなど、大変熱心な委員もいらっしゃいました。前回の会議とは少し違う様相もありますので、来週に発表されるであろう来年度の共通テストの実施要項とその後の会議の流れに注目していきましょう。
来年度の共通テストの発表がどうあれ、来年度の試験に関しては、実施まで1年をきっていることも考えると、これ以上、「来年度の試験」に関して必要以上の賛成、反対の議論をぶつけ合いは今の高校2年生を不安にさせます。ですので、発表後は「来年度の試験」については速やかな実施ができるようにしたいものです。そのようになるように、以下の点はしっかりと発表してもらいたいと思います。
・「数学I」「数学I・数学A」の記述がなくなった15点分をどのように補うのか。
・共通テストを実施する場合、記述式で問う予定であった「表現力」をどこで問う予定なのか。
・「数学I」「数学I・数学A」の試験時間を70分のままにするのか、60分に戻すのか。
・国語の現代文は、記述式を入れる場合は3題(文学国語・論理国語・実用国語)出題される予定であったが、2題にするのか。2題にするのであればどの2題にするのか。
・「国語」の試験時間は記述式にあてた20分を削り80分に戻すのか。
・新たな試行調査を実施するのか。
新体制になり、萩生田大臣もこれまで以上に熱心に取り組んでいただけそうですから、今後の動きを見守っていきたいと思います。
◆入試改革のあやまちを繰り返さないために4
<文/清史弘>