久慈地域エネルギー株式会社。屋根の上には太陽光発電を設置している
「現状の契約電力は8483キロワット(8メガワット)。出資企業でもある株式会社細谷地が取次代理店となって、ガスとのセット売りのおトクな割引価格で提供できています。契約世帯は東北全域ですが、久慈市内では約1万5000世帯のうち5%が加入されている計算です」と勝田雅幸営業部部長は語る。一般的に黒字経営のベースは5メガワットとされていて、それはすでに超えている。
現在の電源は100%電力卸市場からだが、4月からは長内川上流で岩手県企業局が管理・運営している滝ダム水力発電所から電力供給を受け、「アンバーホール(文化会館)」への供給も始まる。
地産地消が動き出す2019年度決算(2019年4月1日~2020年3月31日)ではさらなる黒字化が見込まれている。久慈は24メガワットの太陽光発電能力があり、熱供給業の久慈バイオマスエネルギー株式会社もある。これらとの将来的な連携も視野に入れている。
「エネルギー代金の域外流出を減少させることで、地域経済循環を進めたい。また、久慈市の施設や設備(アンバーホールや市民体育館など200件以上)に従来の電気料金よりも安く電力を供給することで、自治体の電気料金を削減したいという当初の目的の一部は達成しつつあります。今後は、地産地消と子育て支援など、各種支援活動を通じ地域の活性化をも図っていきたい」(若林治男・久慈バイオマスエネルギー取締役)
自治体新電力では、地域付加価値分析を行うことが欠かせない。地域付加価値とは、その地域で企業が生み出した利潤、雇用者報酬(賃金)、税収の合計額を指す。つまり、地域に地域経済循環のもととなるお金を生み出しているかがわかるのだ。
今回、久慈地域エネルギーの協力を得て算出した久慈地域エネルギー(売上高1億6320万円)の地域付加価値は667万円であった。『入門 地域付加価値創造分析』(諸富徹編著・日本評論社刊)による同規模の自治体新電力・ひおき地域エネルギー(鹿児島県日置市 契約電力約7メガワット)の分析による推定値では売上約1億4000万円、地域付加価値は約900万円であることから、同程度の割合とみられる。
ただし、課題も多く、地域付加価値分析に影響を与えるのが需給管理だ。需給管理とは電力の需要と供給を一致させる作業で、電気事業の要となるものである。一定のノウハウが必要で手間もかかるため、自社で行わず民間事業者に委託するケースが多い。
需給管理を行うことで、電気事業の要のノウハウ蓄積、収益性の向上などがみられる。久慈地域エネルギーでも外注費で約数百万円規模(推定)で域外に流出している。この需給管理が内製化できれば、地域付加価値は1000万円を超えるようになるのではないか。
久慈地域エネルギーはさらに熱や電気自動車(EV)などで注目される「交通エネルギー」の地産地消をも目指している。久慈地域エネルギーは建設会社がリードしているが、NHK「あまちゃん」の舞台となったことでよく知られる久慈市の将来像をもデザインしようとしているのかもしれない。
<文/松井克明>