「私は協同組合型の監理団体に勤めていたが、不正が横行していた。監理事業でも様々な問題があり、その中で命を落とした実習生もいた」
もう一人の情報提供者は元監理団体職員。所属する組合の不正を告発したが、状況は改善できなかったという。
「私がいた協同組合は、もともとある企業が実習生を受け入れるために設立したものだった。職員は10名以下、所属する実習生は150~200名程度、契約企業は20社程度で、監理団体としては小規模だった」
どのような不正があったのか?
「所属先の不正には、協同組合としての不正と監理団体としての不正があった。まず後者の問題だ。
技能実習生は従事する職種・作業が定められているが、うちの組合の実習先ではそれ以外のことをやらせていた。また監理団体は3か月に1度、実習先を訪問して実習生と面談して実習状況を監査しなければならない。しかし、うちの組合は所用で企業を訪問した日を『監査実施日』として虚偽報告し、実習生と面談することはほとんどなかった。俗にいう『
エア監査』だ」
監査が杜撰では、問題が起きるのではないか?
「数年前、うちの組合に所属する
実習生が自殺したことがあった。主な原因は実習生同士のいじめだったようだが、遺族に賠償金を払っただけで処分は何もなかった。この企業では
賃金未払いも2回発覚した。この件は労基署の立ち入り検査で発覚し、未払い賃金の支払い等が命じられて終わった。うちの組合は何も知らなかったということで処分されなかったが、
組合が何も知らないこと自体が問題だ。組合がきちんと監理業務を行っていれば、これらの事件は起きなかったはずだ」
業務を怠ってトラブルを誘発した監理団体が処分されないのはおかしい。
「私はこれらの問題について
外国人技能実習機構(OTIT)に通報したが、機構の対応はお粗末そのものだった。機構は別件で企業を訪問した際、組合と企業の担当者が同席している場で『ちゃんと監査していますか』と確認する始末だ。当然、組合は『監査している』と嘘をつき、組合と揉めたくない企業も『監査を受けている』と口裏を合わせる。結局、機構は問題なしとして何の処分もしなかった。2017年に機構が設立された時は状況改善を期待したが、実際には何も変わらなかった」
協同組合としての不正は?
「協同組合法では総会で承認された決算書の提出等が義務づけられている。しかし、うちの組合では総会を一度も開かず、総会議事録は捏造し、総会で承認を受けていない決算書を行政機関に提出していた」
総会を開かない組合側に対して、組合員の不満はなかったのか?
「そもそも、うちの組合では組合員同士のつながりがなく、組合員はお互いに誰が同じ組合員なのか分かっていない状態だった。中には総会が開催されないことを不審に思う組合員もいたが、彼らは無事に実習生が受け入れられればいいので、総会を開催しないことを問題視する声はなかった」
組合は野放し状態なのか?
「協同組合では収益が役員報酬に配分されたり、個人的な飲食接待・海外出張に流用されたりすることが多い。本来ならば、組合員が総会で疑問点を問いただしたり、決算書を審議したりすることで組合の不正を防ぐべきだ。しかし、実際の組合員は組合から実習生を回してもらわないと立ち行かなくなる中小零細企業ばかりなので、立場が逆転して組合の言いなりになったり、余計なことはせずに放任しているのが現状だ」
行政はどういう対応なのか?
「これらの問題点について、私は県庁の協同組合管轄部門に通報したが、『組合と組合員が〈総会を開催している〉と言えばそれ以上は追及できない』という返答だった。その後、担当者から『組合を調査したが、書類が整っているから問題はない』と連絡があった。形だけ対応したということだ。余程のことがない限り、行政は動かない」
技能実習制度を改善するためには、協同組合を改善する必要がある。
「しかし
技能実習制度では組合のほうが組合員より強いため、自浄作用は働かない。監理団体を監督するOTIT、協同組合を監督する行政が外部から組合を是正することもない。状況の改善は難しいと思わざるをえない」
「もちろん技能実習のおかげで帰国後に豊かな生活を送れるようになったと日本に感謝している実習生がいることは事実だ。だが、その一方で技能実習のせいで借金塗れになったり、身体を壊したりして普通の生活すら送れなくなったと日本を恨んでいる実習生がいることもまた事実だ。技能実習で問題が起きるのは、監理団体や企業が定められたルールを守っていないからだ。
技能実習のルールが実態に沿っているのか見直した上で、監理団体や企業にルールを守らせるよう取り組まない限り、この問題は解決しないだろう」
行政が動かないならば国会が動くしかない。しかし、その国会でも技能実習から甘い汁を吸っている人間がいる。国会が動かないならば、国民が動くしかない。
※本誌では今後も読者からの情報提供をお待ちしております。
◆ルポ 外国人労働者第6回