根強くユーザーがいるWindows7のサポートを終わらせることはなぜ必要なのか?

OSの乗り換えの必要性

 今述べたように、古い OS は、現在の環境に合わせて作られていない。だから、時代に合わせて置き換えが必要になる。  そうは言っても、「古いマシンで使うから、OS の移行なんて必要ない」と考える人も多いだろう。その意見も一理ある。ネットワークにつながず孤立して使うのなら、古くて使い難いという点を除けば、大きな不都合は生じないだろう。  しかし問題は、現在のコンピューターは、ネットワークにつながることが前提になっていることだ。コンピューターを使って、インターネットを見ない人はいないだろう。メールも使うだろう。最近のアプリケーションは、自動でアップデートしたり、クラウド上にデータを置いていたりする。多くの場合で、ネットワークと常時接続していることが前提になっている。そうした環境で、インターネットにつながず、孤立させてパソコンを使うことは現実的ではない。  ネットワークにつないでいると何が起きるのか。悪意のある攻撃にさらされる。OS やアプリケーションは完璧ではない。多くの脆弱性がある。これは、それらのプログラムが欠陥品だということではない。作られた時には予期しなかった抜け穴が発見される。犯罪者が考えた最新の方法で攻撃される。そうしたことが常に起きる。  そこで OS やアプリケーションは、脆弱性が発見されるたびにアップデートをおこなう。利用者が多い OS やアプリケーションほど、抜け穴を探す人や、攻撃方法を考案する人が多い。Windows などのOS。Google Chrome のようなWebブラウザ。そうした利用者の多い OS やアプリケーションは、絶えず脅威にさらされている。そのため、OS やアプリケーションの提供側は、頻繁なアップデートをおこなう。  これは、城塞都市を守るのと同じだ。そこに多くの富が蓄積されていれば、隣国や盗賊からの襲撃にさらされる。アップデートは、それらを守る衛兵の増員や、警備体制の見直しのようなものである。  城塞都市の警備が無料でできるわけがない。そこには当然コストが掛かる。OSの販売価格。アプリケーションから得られる収益。そうしたものを利用して、コストを捻出して警備を続ける。しかし、OS や アプリケーションのシステム自体が古くなれば、コストが増大する。どこかでリセットして、最新のものにしなくてはならなくなる。これは、老朽化した城壁を建設し直すようなものである。  Windows では、最新の Windows 10 にリソースを集中している。10年以上前に出た Windows 7 のアップデートを続けるのは非効率なので終了する。これは当然の選択だろう。その結果、何が起きるのか。警備兵の補充がない城塞都市が残される。それが2020年1月15日移行の Windows 7 の状態だ。  しばらくは、これまでのアップデートで攻撃を防げるだろう。しかし、新しい攻撃手法が開発されても、それを防ぐ方法は導入されない。攻撃され放題になってしまう。いずれ Windows 7 という城塞都市は落とされてしまうだろう。  それでも、Windows 7 のままでよいという人もいるだろう。「わざわざ自分が攻撃されるはずがない」そう思っているかもしれない。しかし、その考えは極めて危険だ。  インターネット社会になって以降、犯罪の仕方は大きく変わった。他人とつながるコストが大幅に低下した。  ネット時代以前は、犯罪の被害者を個別に探して、犯行におよばなければならなかった。しかし、ネット時代以降は違う。処理を自動化して、警備体制に穴がある場所を見つけたら、プログラムに攻撃させる。そうしたことが可能になった。  こうした仕組みを現実世界の犯罪に当てはめてみよう。プログラムが無差別に電話をかけて、その電話がつながったら、自動でロボットが送り込まれて、家のなかの貴重品を盗むようなものだ。  現実社会ではありえないが、コンピューターの世界なら起こりうる。そうした攻撃を専門にする犯罪集団が世界に多数ある。サポートが切れた OS やアプリケーションを使い続けると、そうした悪意ある攻撃者たちの到来を、ノーガードで待つことになる

Windows 7 のシェア、移行の難しさ

 サポートの切れた OS を使い続けることの危険性を書いた。しかし、現実問題として、OS の移行は難しい。現在の Windows 7 のシェアはどのぐらいなのか。2019年の数字を見てみよう(参照:Operating system market share)。  2019年1月の時点で37%、12月の時点で26%となっている。約1/4のコンピューターが、まだ Windows 7 だ。1月に大幅に数字が変わらなければ、世の中の 1/4 のコンピューターが犯罪者たちの脅威にさらされることになる。  古い OS を使っている人がこれほどいる状況を、Microsoft も無視できないでいる。一部のWindows 7 ユーザーに、セキュリティアップデートを提供するという発表もしている。条件を満たすユーザーは1年間無料、その後は有償で徐々に金額が上がっていく(参照:TechCrunch Japan)。  しかし原則は、新OSへの移行である。この機会に最新の OS に変えた方がよい(参照:Windows 10 のダウンロード)。また、あまりにも性能が低いパソコンを使っている場合は、Windows 10 が快適に動くパソコンに買い換えるべきだろう。  どちらにしろ、ノーガードでパソコンを使い続けるのは危険だ。早めに手を打つに越したことはない。 <文/柳井政和>
やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『レトロゲームファクトリー』。2019年12月に Nintendo Switch で、個人で開発した『Little Bit War(リトルビットウォー)』を出した。2021年2月には、SBクリエイティブから『JavaScript[完全]入門』、4月にはエムディエヌコーポレーションから『プロフェッショナルWebプログラミング JavaScript』が出版された。
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