2006年から2019年まで、死体が捨てられている「墓穴」となっていた場所は3631か所あるという。その中でも墓穴が一番多く見つかった自治州はタマウリパスの440か所、それに続いてベラクルス432、シナロア345、ゲレロ331、チウアウア318、メキシコーシティー293、サカテカス267、ハリスコ224、ソノラ219という。グアナフアトは現在カルテル同士の戦いが盛んであるが意外にも墓穴は一つも見つかっていない。
タマウリパス州で「墓穴」が多いのは、そこがカルテル・ゴルフォの本拠地だったのであるが、それが分裂してその中の一つロス・セタスが最も狂暴で他の分派を倒す為に闘争して勢力を拡大。その証拠が多くの墓穴として存在しているのである。
カルテル同士の衝突には一般市民も巻き込んでしまうことが容易で、それがまた行方不明者の数を多くさせているのであった。それで今も未解決となっているのが2014年9月に43人の学生が行方不明となった事件である。現在まで明白になっているのは自治体警官が彼らを拘束して犯罪組織に渡したということまで判明している。しかし、今もどこに埋葬したのか不明だ。この事件に関係して142人が逮捕され77人が保釈となった。殺害して火葬したというのが逮捕された犯罪組織のメンバーからの証言であるが専門家の間ではそのような形跡はないと断定している。(参照:「
BBC」、「
Infobae」)
アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(アムロ)大統領のこの1年間の政権中にも9164人の行方不明者が発生している(ちなみに、3万4579人が殺害されている)。その内の2100人がハリスコ州で起きている。それに続いてタマウリパス州が613人となっている。性別で見ると、男性6,067人、女性3,093人、性別確認不可4人という内訳であった。その中で子供と青年は2720人で身元が確認できたのは1713人だった。しかし、身元が確認できたといっても前述したオスカル・アントニオ君のように果たして正しく身元が確認されたのか否かについては明白にされていない。(参照:「
Infobae」、「
Expansion」)
そしてアムロの1年間の政権中に見つかった墓穴は873か所で、1124体が遺体として発見された。発見された遺体が一番多かったのはシナロアの252体、ハリスコ213、コリマ146、ソノラ143、チフアナ71という内訳で825体が見つかっている。(参照:「
Expansion」)
ただ、アムロが大統領になってから、行方不明者への取り組みがより積極的になっている。それまではこの問題を隠そうとする傾向があったという。その影響もあって、今も各州から上がって来る行方不明者についての情報がまだ十分に揃っていないのが現状だという。32の自治州の内で11の州での検察による統計が今年1月の段階でまだ提出されていないそうだ。
以上から、行方不明者の数もさらに増える可能性が十分にある。アムロ政権の人権保護局のアレハンドゥロ・エンシナス副局長によると、その統計を困難にして来たのは、警察の振る舞いに要因があると指摘している。というのは、多くの警官がカルテルと癒着しているのは良く知られたことである。ということから、警官がカルテルの犯罪を隠蔽して来たということが問題で、それが犯罪の統計の作成に遅れが出ている要因なのである。だから行方不明者についての捜査も警察が十分に行っていなかったということなのである。
<文/白石和幸>