このままでは横浜カジノは止められない。住民投票とリコールの足の引っ張り合いを防ぐための提言

提言「住民投票の署名収集開始を2020年2月に前倒し」

 2つの問題点の解決策として現時点で考えられるのは、住民投票条例の制定の署名収集開始の早期化ではないだろうか。住民投票条例の制定は必要署名数が約6万筆と少ない上、昨年末の時点で既に1万5000人以上の受任者が集まっている。受任者1人当たり4人の署名を集めれば良い計算であり、今すぐ署名集めを開始しても2ヶ月以内に必要な署名数を集めることは十分に可能と思われる。逆に、従来の予定通りに署名開始を5月1日まで引き延ばしても、ここまで説明してきた通りデメリットしか見つけられない。  例えば、住民投票条例の制定を予定より3ヶ月早めて2020年2月にした場合の予想スケジュールを下図「6.住民投票と市長リコールの予想スケジュール(住民投票の署名収集開始を2月に早めた場合)」に整理した。
住民投票と市長リコールの予想スケジュール(住民投票の署名収集開始を2月に早めた場合)

図6:住民投票と市長リコールの予想スケジュール(住民投票の署名収集開始を2月に早めた場合)

<住民投票> 2020年2月1日:署名収集を開始 同年2月〜3月末:署名の収集期間(政令指定都市の収集期間は2ヶ月間) 同年4月1日〜4月20日:署名の審査期間(署名数が減るため、従来の「2ヵ月間」から規定通りの「20日間」に短縮同年4月21日〜28日ごろ:署名の縦覧期間(7日間) 同年4月29日〜5月18日ごろ:請求受理から議会招集までの猶予期間(努力規程で20日以内) 5月中旬〜6月上旬第2回定例会の議決に間に合う可能性あり <市長リコール> 2020年7月1日:署名を開始 同年7月〜8月末:署名の収集期間(政令指定都市の収集期間は2ヶ月間) 同年9月〜10月末ごろ:署名の審査期間(約2ヶ月間と仮定) 同年11月1日〜7日ごろ:署名の縦覧期間(7日間) 同年11月中旬〜下旬ごろ解職請求 2021年1月ごろ:解職請求から60日以内に解職投票の告示 (厳密には、この他にも細かい手続きは存在するが省略)  住民投票の署名収集を2月に開始すると、受任者数は昨年末に発表された約1万5千人から大きな変化は無いと思われる。必要署名数(約6万筆)は余裕で達成できるだろうが、目標に掲げていた50万筆にはさすがに届かないだろう。  図4で説明した5月開始のパターンでは、約46万5千筆の署名を集めた平成22年の名古屋市議会リコールの審査期間が約2ヶ月であったことを踏まえ、50万筆の署名を目指すとする今回の住民投票も同程度の2ヶ月を要すると仮定した。だが、図6の5月開始のパターンにおいては、署名数が少なくなるため審査期間は通常の規定通りの20日間に短縮できる(改善点①)と考えられる。つまり、署名の審査完了のタイミングはトータルで4ヶ月と10日ほど(署名収集開始の3ヶ月前倒し + 審査期間が1ヶ月と10日ほど短縮)早まる。  この短縮は非常に大きな意味を持つ。図6を見れば分かる通り、住民投票条例の制定が第2回定例会(5月中旬〜6月上旬)の議題に間に合う可能性が出てくるのだ。  そうなれば、住民投票署名に対して時間稼ぎをするのか、もしくは反対意見を付議するのかといった林市長の対応を第2回定例会のタイミングで見極めることができる(改善点②)。さらに、もし第2回定例会の議題にあがった場合は、住民投票署名に対する議会の対応(時間稼ぎをするのか、否決するのか等)も見極めることができる(改善点③)。  そして、最も重要な点として、第2回定例会(5月中旬〜6月上旬)のタイミングで住民投票に対する林市長や議会の対応を確認できるため、約1ヶ月後の7月から始まる市長リコールの署名収集に集中しやすくなる(改善点④)。市長や議会が住民投票署名に対して不誠実な時間稼ぎを行った場合や住民投票条例の制定が否決された場合は市長リコールの機運がさらに高まるだろうし、住民投票条例の制定は7月時点でひと段落している可能性があるため問題点②(住民投票とリコールの動きの矛盾)も解消されるかもしれない。  このように綱渡りでギリギリのスケジュールではあるが、住民投票条例の制定が第2回定例会の議題に滑り込んだ場合、バラバラに動いていた住民投票とリコールが初めて相乗効果を生み出す可能性を秘めている。一気に3点(改善点②〜④)の恩恵を受けることができ、市長リコールの必要署名数を無事に集められるかどうかの大きな分岐点にもなるだろう。  市長リコールの必要署名数を達成できる見込みが高まったところで、改めてタイムリミットを振り返ると、カジノを含む統合型リゾート(IR)の自治体からの申請は2021年1月4日から受付開始と昨年11月に観光庁は発表している。これまでの林市長のカジノ推進に向けた強硬な姿勢を踏まえれば、申請開始初日の2021年1月4日に申請する可能性も十分に考えられる。この1月4日は月曜日であり、年末年始休み後の仕事始めの初日にあたる。ここから逆算するとカジノ推進派である林市長は前年(2020年)の第4回定例会(11月下旬もしくは12月上旬〜12月中旬)でIR申請を市議会に通して可決を狙うと予想される。  これを防ぐには、第4回定例会が始まるまでに解職請求まで進んでいることが望ましい。スライド6枚目にてスケジュールを予想したところ、署名の収集(7月〜8月末)、署名の審査(9月〜10月末ごろ)、署名の縦覧(11月1日〜7日ごろ)を経て、11月中旬〜下旬ごろに解職請求に至るのではないかと見立てている。これは問題の第4回定例会より1週間ほど早い時期にあたるため、第4回定例会でIR申請の議決は不可能になる見込みが高い(改善点⑤)。さすがにカジノ推進を理由に市長の解職請求がされている状態で、カジノを含むIRの申請を市議会が進めることは政治的に困難と想定されるため。そして、年明け後の2021年1月、市長は念願のIR申請をするどころか、逆に市長リコールの解職投票が実施されている可能性がある。  以上が「住民投票の署名収集開始を2020年2月に前倒す」という提言の具体的な内容になる。この予想スケジュールは綱渡りであり、ここに挙げた5点の改善点が実現するかは不透明ではある。だが、筆者が調べた限り、住民投票の署名収集開始時期を現在の予定通り2020年5月まで待つべき理由は何一つ見つけられなかった。  もしそれでも「カジノの是非を決める横浜市民の会」は5月から署名収集を開始する考えを変えないのであれば、2021年1月というIR申請の開始時期が明らかになった今、一体どのようにして住民投票でカジノを止めるのか具体的なスケジュールを説明すべきではないか。住民投票の受任者集めを行なっている日本共産党・横浜市議団立憲民主党・神奈川県連合についても同様のことが言える。 「カジノの是非を住民投票で決める」(カジノの是非を決める横浜市民の会 Webサイトより引用) 「リコールも視野に、横浜でのカジノ誘致の撤回へ」(立憲民主党・神奈川県連合 Webサイトより引用)  こうした耳障りのいいキャッチフレーズはよく聞くが、本記事で示したような2021年1月までの1ヶ月単位の各アクションが明らかにされたスケジュールをこれらの団体は示していないと思われる。(2020年1月11日時点)。  さらに言えば、立憲民主党・神奈川県連合については、受任者申し込みフォームにて、住民投票と市長リコールに「議会リコール」まで加えた3種類の受任者を同時に募集するという複雑な活動を展開している。問題点②で挙げたように住民投票と市長リコールだけでも矛盾が生じているのに、さらに議会リコールまで加えて、どのように活動全体の整合性を保つのか。2021年1月のIR申請開始日までに、この3つの活動(住民投票、市長リコール、議会リコール)をいつ、どのような順番で行い、カジノを止めるのか。すでに受任者集めを始めている以上、説明責任があるのではないか。  また、立憲民主党・神奈川県連合は2020年1月5日時点の受任者申し込みフォームで3種類(住民投票、市長リコール、議会リコール)の受任者の総称として「カジノ受任者」というあたかもカジノを推進する立場と誤解される名称をあえて用いていたことも指摘しておく。(2020年1月11日時点では「カジノ誘致反対受任者」という名称に変更) 〈*直接請求の仕組みについては『横浜市 市会ジャーナル 平成26年度Vol.11』を参考に本記事を執筆した。以下、本記事と関連の高い箇所を抜粋する。 ・無効となる署名(P5) ・首長による反対意見の付議(P13〜14) ・政令指定都市でのリコール成功(P12〜25) <文・図版制作/犬飼淳>
TwitterID/@jun21101016 いぬかいじゅん●サラリーマンとして勤務する傍ら、自身のnoteで政治に関するさまざまな論考を発表。党首討論での安倍首相の答弁を色付きでわかりやすく分析した「信号無視話法」などがSNSで話題に。noteのサークルでは読者からのフィードバックや分析のリクエストを受け付け、読者との交流を図っている。また、日英仏3ヶ国語のYouTubeチャンネル(日本語版/ 英語版/ 仏語版)で国会答弁の視覚化を全世界に発信している。
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