新宿駅で強制わいせつした男。結婚前提の恋人が涙の証言<裁判傍聴記・第2回>

結婚前提の恋人が証言台に立った

 法廷に入った時から気にはなっていたが、傍聴席の最前列、被告人にいちばん近い席にスーツ姿の女性が座っていた。裁判が始まっていないにもかかわらず、背筋を伸ばして座っている。もしかすると被害者の女性だろうか。裁判の中盤になると、その女性は証言台に立った。被告人と結婚を前提に交際をしているという女性だった。 「どうしてこんなことになってしまったのか、悲しいです。事件後、何度も彼と話し合いをし、被害に遭われた方に誠実な対応をしてくださいと伝えました。今後は私が身元引受人となって彼を支えていくと決めました」  ナンパをして自分を裏切るような人だとは思っていなかった。しかし、彼を突き放すのではなく、自分にできることならなんでもしてあげたいと涙ながらに訴えた。  交際相手が強制わいせつ。しかも結婚を前提にした付き合いだ。それでも何度も話し合いを重ね、男を支えるという決断を出した。彼女には脱帽だ。そんな雰囲気が法廷を包むなか、事件当時の行動や動機を再び検察官が追及する。ちょっとくらい間を空けてやってもいいんじゃないのか。

もうナンパはしないとここに誓います

 検察官の問いに男が答える。証言台を降りたばかりの女性はまだ目に涙を浮かべている。  事件当日、男はイヤホンを購入するために新宿駅を降りた。決して、ナンパをするために新宿に来たわけではないと強調する。しかし、男の家は新宿から電車で1時間半以上はかかるであろう茨城県の片田舎。なぜイヤホンを買いにわざわざ新宿まで。 「彼女の家が近くにあるので、その日も泊まることを彼女に伝えていました」  家で彼女が待つなか、男は家電量販店でイヤホンを購入した後、沖縄料理店で夕食を済ませ、ひとりでダーツバーに。そこでカクテルを3杯ほど飲み、酔い覚ましに新宿駅東口周辺を歩きながら女性を物色。「お酒に酔って気分が高揚しており、これだったら女性に話しかけられると思った」とこれ以上ない、酒を言い訳にした言い訳…。さらに検察官は「被害者はうつむいて首を振りながら拒否していたのに、なぜ止めなかったのか」と追い詰める。 「嫌がってはいましたが、少しくらいは同意をしていると思い、周りに人がいる状態でも構わずしてしまった」  そう、事件現場は新宿駅東口改札のすぐ横にあるルミネエストのエレベーター前。いくら深い時間だといってもそれなりに人通りはある。お酒のせいにしてはいけないけど、酒の力で大胆になったのだ。「結婚を前提にしているほどの相手がいるのに、なんでナンパを?」と検察官が追い打ちをかける。「やはりお酒に酔って気持ちが高まっていたので……」。交際相手の女性は下を向き、手で目頭を押さえる。  そして男は最後に法廷で宣言した。「保釈金まで親に払ってもらった自分が情けない。感情的にならず冷静だった彼女を見て、大切にしないといけないと思った。もうナンパはしません!」  犯行をすべて認めていること。計画性はないこと。被害者に対し、損害賠償・慰謝料を支払い、謝罪文を書き、反省の色があること。交際相手の女性の存在があること。これらを考慮して、懲役1年6カ月、執行猶予3年の判決が下った。しかし、もしこの男が証言台に立った女性と結婚したら……。死ぬまで「あのときは……」と嫌味を言われ続けるのだろう。となれば懲役50年といったところだろうか。 <取材・文/國友公司>
くにともこうじ●1992年生まれ。筑波大学芸術専門学群在学中よりライター活動を始める。著書に『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』(彩図社)。Twitter:@onkunion
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