――作中では、結果的には番組を降板になる東海テレビの福島智之アナウンサー、1年で契約終了となる制作会社から派遣されて来た新米記者、そしてベテランの契約社員の報道記者に焦点が当たっています。彼らは、テレビ業界の社会的弱者なのでしょうか?
圡方:そこまで俯瞰で見て構造的な考え方はしていません。結果的にあの3人が残ったというだけです。ただ、アナウンサーの福島(智之)だけは、東海テレビで2011年に生放送中に「汚染されたお米 セシウムさん」と表示されたリハーサル用のダミーテロップを流してしまった「セシウムさん事件」があったので、取り上げようとは思っていました。
この人とこの人とこの人を配置するとうまい具合になる、とすると上手くいかないので、残りの2人についてはスタート時点では決めていませんでした。派遣されてきた新米記者の渡邊(雅之)さんに関しては、結果的に1年で会社を去るということがわかったので、彼をメインの取材対象のひとりに据えようということになりました。撮影をスタートした段階では決めていません。
(C)東海テレビ放送
――あの3人以外にも撮っている方々はいるんですね?
圡方:います。とにかく報道部員をたくさん撮っていて、最終的にあの3人が残ったという感じですね。
阿武野:取材期間は1年7ヶ月でVTRが回った時間は700時間ありました。深いものを作るには、それぐらいの日数と労力を要するということです。このスタッフに働き方改革はどうなっているんでしょうね(笑)。
――名張毒ぶどう酒事件を追い続け『約束』『眠る村』など今まで数々のドキュメンタリーを監督してきた報道部長の齊藤潤一さんが印象的でした。
圡方:齊藤さんが報道局長から残業代の圧縮を命じられて、納得しないデスクとやり取りするシーンですね。上司としては現場に思いっきりやらせてあげたい。でも一方で規定の労働時間を越えたということで会社が罪に問われてはいけない。どこの会社にもあることですよね。
どこの報道部でも起こりえることで、カメラマンはメインの取材対象のひとりに齊藤さんを含めるべきでないと言っていましたね。
――齊藤さんが、視聴率を上げるためにスタッフを叱咤激励するシーンがある意味皮肉にも感じました。でも、視聴率を上げなければドキュメンタリーの取材もできなくなってしまいますよね。
阿武野:全国の民放で毎年300億の売り上げが減少していると聞きました。名古屋の局が1つ無くなる計算ですね。視聴率がお金の指標になるので、ニュースでも数字を「上げろ、上げろ」という状態は当然と言えば当然です。その意味では東海テレビも入っているフジテレビ系列はかなり視聴率を落としています。その中で一生懸命に報道部の管理職は視聴率を上げる旗振り役をしなくてはならないわけです。
――なるほど。
阿武野:経営サイドがどんな風に「数字を上げろ」と言うかは人によって変わります。例えば、「作りたいものを作りなさい、伝えたいものを伝えなさい」という人もいます。一方で「マーケティングをやれ。数字を上げろ」という人もいます。
社長が変わると会社の方針が変わるように、誰が指揮するかでニュースの現場も変わります。そういう意味では視聴率、マーケティングに比重をかけるリーダーの時もあれば、そうでない時期もある。ただ、ジャーナリズムをどう考えるか、報道の役割をどう守れるか。その場でどう踏みとどまれるか、それぞれの人間力が試されているのかもしれませんね。
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*後編では東海テレビ初の大ヒット映画『ヤクザと憲法』の制作秘話、ドキュメンタリーにかける思いなどについてお話を聞きます。
<取材・文/熊野雅恵>
2020年1月2日(木)東京・ポレポレ東中野、名古屋シネマテークにてお正月ロードショー、ほか全国順次公開
くまのまさえ ライター、クリエイターズサポート行政書士法務事務所・代表行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、自主映画の宣伝や書籍の企画にも関わる。