情報技術は人権を守るのか、抑圧するのか。ゲーム開発者視点で選ぶ、2019年10大ギークニュース

「記録を残さない政府」にITの敗北を見た

◆ 6. 2019年5月9日 桜を見る会疑惑  この問題の発端としては、共産党の宮本徹衆院議員が、政府に招待者数の推移などを資料請求した時点とするのがよいだろう。桜を見る会疑惑は、これまでの同様の問題と同じ構造を持っているように感じる。権力を握った側が、不都合な情報を消していき、問題自体を握り潰そうとしていく構図。  以前であれば一発アウトの反社会的な活動であっても、大きな議席数と安定した支持率があれば、うやむやにできるという事例が積み重なっている。建前が崩壊しても問題のない、無敵の状態になっている。  記録を残すというのは本来、情報技術の進展によって拡大しなければならないことだ。それが情報の隠蔽や消滅の方便に使われたことは、ITの敗北だという感想を持った。  記録の抹消は、問題の検証や改善を不可能にする。個人的には、未来に対する犯罪だと考えている。記録の保持こそが、未来を現在よりもよくするスタート地点だと信じている。 ◆ 7. 2019年5月15日 ファーウェイが禁輸措置対象のリストに入る  アメリカ政府がファーウェイ禁輸措置を発令した件である。米中経済戦争の象徴的な出来事だと言える。ITの世界が、アメリカを中心とした陣営と、中国を中心とした陣営とに、今後分断されていく未来が大きく示された。  以前から、この状態は指摘されていたが、今回の出来事は、その未来を補強するものとなった。対立が続けば続くほど、中国はより強固な体制を築き、世界に対する圧力を増していくだろう。いずれにしろ、これから数十年は、中国が世界の中心的な存在になっていくと思われる。

「社会の常識」を塗り替えてしまうテロ行為

◆ 8. 2019年7月18日 京都アニメーション放火事件  歴史の中には、社会の常識を変えてしまうテロ行為がある。京都アニメーション放火事件は、オタクコンテンツの会社が襲撃されたという一面的な事件ではなく、個人が大規模虐殺を手軽におこなえることを実証したという点で、社会の常識を大きく変化させた事件と言える。  実際、この事件以降、同事件を示唆した脅迫行為がたびたびニュースに登場した。今年話題になった表現の不自由展でも、大村知事が、同事件を意識したことを明かしている。  個人的には、この事件を知ってしばらく、この件についてはネットに書けなかった。自分でコンテンツを作って公開していれば、多かれ少なかれ罵倒されたり攻撃されたりすることがある。そうした過去の出来事が頭に浮かんだからだ。 ◆ 9. 2019年8月18日 常磐自動車道あおり運転容疑者逮捕  あおり運転殴打事件の容疑者が逮捕された事件。ドライブレコーダーの映像が全国に拡散して威力を発揮した。それとともに、世論に押される形で、国家公安委員長が「あらゆる法令を駆使する」と発言するなど、事件の規模と非対称に捜査が進展した。  この事件は、映像のインパクトと、SNSでの拡散という、今年を象徴する事件のひとつになった。そして、SNSをハックすることで世論を動かせば、警察の捜査を変えられる可能性も示唆した。昨今問題になっているフェイクニュースによる世論の誘導と組み合わせれば、危険な展開になるのではという危うさを感じさせた。
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