こうした中、大切なのは、働き手が介護をせざるを得ない状況になった時に、被介護者の状態と介護者のライフスタイルに応じて、離職をするのか、仕事と並行して介護するのかという選択ができることではないだろうか。
そこで、「『仕事』と『介護』の両立支援に向け、自社での取り組みや整備した制度があるか」という質問をした。最も多かったのは、「就業規則や介護休業・休暇利用をマニュアルなどで明文化」であり、4割以上に当たる2931社(44.7%)がこう回答した。また「介護休業や介護休暇の周知、奨励」に取り組む企業も1161社(17.7%)あった。
介護休業とは、親族を2週間以上、常時介護する必要がある場合、通算93日分まで休業できる制度である。これを使えば、介護と仕事を並行して行いやすくなる。
しかしこれだけではとても充分とは言えないだろう。休みを取りやすくするだけでなく、介護をしながら柔軟な働き方ができるようにする必要がある。離職や休業もせずに働き続けることできそうな在宅勤務やテレワークという勤務形態の導入は、資本金1億円以上で143社(11.5%)、1億円未満は267社(5.0%)にとどまった。
先ほどの介護離職を防ぐ取り組みについての質問だが、実は2番目に多かったのは、「特になし」であった。これは全体の3割(2013社)にものぼり、そもそも介護離職防止の取り組みをしようとする企業自体が多くない状況なのである。
しかしながら、 このような実態を、企業も認知してないわけではない。「仕事」と「介護」の両立支援について、自社での取り組みが十分と思う企業は全体の12.0%(707社)のみだったが、「思わない」とした企業は48.2%(2841社)にも上った。また、「介護離職者数は将来的にどうなっていくと思うか」の問いには、約7割(4035社)が「増える」と回答した。 つまり、危機感を抱いてはいるものの、特に取り組みをしていない、というのが実情なのだ。
もちろん、これは企業にのみ責任があるわけではない。「新三本の矢」として「介護離職ゼロ」を掲げておきながら、何の結果も出さない政府の責任が1番大きいだろう。介護離職者数は、2017年には約9万人と、2010年代に入って約2倍も増えた。それだけ多くの人が介護の負担を強いられているということだ。また、介護離職に伴う経済全体の付加価値損失は、1年あたり約6500億円にものぼると言われている。
このままでは、労働者も企業も困るのだ。しかし、政府には期待できない。もはや、企業と労働者がともに助け合う形を作っていくべきなのかもしれない。
<文/田中宏明>