対ラテン・アメリカ外交の座標軸を失ったトランプ。台頭する中国
◆6.米国の対ラテンアメリカへの外交は明確な座標軸を失った
トランプ大統領は「北米のボルソナロ」と呼ばれて喜んでいる。トランプ政権が南米で唯一信頼を寄せているのがブラジルである。アルゼンチンの信頼していたマクリもいなくなった。コロンビアのドゥケ大統領とは嘗ての米国とコロンビアの間の特別な信頼関係は麻薬問題から薄らいでいる。ベネズエラのマドゥロ大統領は駆逐できないでいる。隣国のメキシコとの関係も難しい仲にあるが、アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領がトランプとうまくやって行くには喧嘩をしないことだと言悟って、しかもトランプの要望に叶うような外交を展開している。そのこともあって、トランプはロペス・オブラドールのことをペーニャ・ニエトよりも気にっていると発言するようになっている。しかし、現在のトランプのラテンアメリカ外交には一貫した戦略はなく座標軸を失った行き当たりばったりの外交になっている。その隙間をうまく利用しているのが中国だ。〈参照:「
BBC」など〉
◆7.スペインは4月から政権が誕生しない状態にある。その一方で極右政党が飛躍
4月の総選挙で社会労働党が勝利したが、過半数の議席を満たすことができず、11月にやり直し選挙を行った。その結果、スペイン民主化以後、初めての連立政権が誕生することになった。その連立の相手は極左のポデーモスだ。しかし、それを成立させるには皮肉にもカタルーニャの独立を望む左派カタルーニャ共和党が棄権してもらわねばならなくなっている。その為の左派カタルーニャ共和党との交渉の成立は今も至っていない。ということで、サンチェス暫定首相の内閣成立は年明けになりそうだ。しかし、11月の選挙は極右ボックスが躍進した選挙だった。社会労働党とポデーモスの連立政権で良い成果が出せないと、次期選挙では国民党にボックスが連立政権の一翼を担う可能性もある。〈参照:「
OK Diario」など〉
ラテン・アメリカ諸国を席巻する「公正な社会」を求める声
◆8.ラテンアメリカで政府に抗議するデモがエクアドルから始まって、チリ、ボリビア、コロンビアなどに波及
ラテンアメリカは富の分配が不平等な地域として良く知られている。つい最近起きたエクアドルの暴動から始まってチリ、コロンビアなどにも同様な問題が波及している。
ラテンアメリカでは10人にひとりが極貧状態にあるという。その数は2002年には5700万人であったのが、15年後には6200万人と増えている。今も政府への激しい抗議デモが続いているチリの問題は富の分配において1%の最大富裕者がGDPの26.5%の富を占め、それに続く富裕者10%が66.5%の富を分配しているということなのである。即ち、11%の富裕層がGDPの93%の富を占有しているということが問題なのである。〈参照:「
Diario Uno」など〉
◆9.20世紀初頭の大国アルゼンチンで70年政権を担って来た正義党が復活した
南米アルゼンチンで12月10日、アルベルト・フェルナンデス元首相が大統領に就任した。戦後ほぼ延べ70年の政権を担って来た正義党(ペロニスタ)の復活である。
しかし、フェルナンデス大統領はマクリ前大統領の外交を方向転換させて、メキシコの左派政権アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領と連携してラテンアメリアで左派陣営の復活を目指している。それはラテンアメリカのナンバーワンの経済大国ブラジルのボルソナロ政権と対立するものである。そして、嘗て同じく左派政権だったエクアドル、ボリビアが右派政権に移行している。ラテンアメリカがメキシコ・アルゼンチンを軸にする左派とブラジル・コロンビア・チリを軸にする右派との勢力圏に二分して行くようだ。〈参照:「
BBC」〉
◆10.カタルーニャの独立運動に不安を感じてこれまで5500社がカタルーニャを去った
2014年頃から始まったカタルーニャの独立運動は今も続いている。しかし、それに不安を感じてカタルーニャから本社を他州に移転させた企業は5500社にも上る。カタルーニャには62万社の企業が存在しているが、大手企業の大半がカタルーニャを去った。カタルーニャへの外国からの投資も減少している。このままカタルーニャの政情不安が仮に10年も続くようになると、カタルーニャ経済は大きく落ち込むことは必至である。これまでカタルーニャとマドリードの経済規模はほぼ互角であったが、今年に入ってマドリードがカタルーニャに差をつけているのが歴然となっている。〈参照:「
Economia Digital」など〉
<文/白石和幸>