エリート官僚の長男はなぜ家庭内暴力に走ったのか。エリート家庭の子ほど囚われる「自己不全感」という牢獄

自己不全感に苛まれる若者

yukiotoko / PIXTA(ピクスタ)

エリート家庭に多い「自己不全感」を抱く子

 ’19年6月、40代の長男を殺害した70代の父親に、東京地裁が下した判決は懲役6年だった。この長男は長年、家庭内暴力を繰り返していたとして、弁護側は執行猶予つきの判決を求めていた。裁判長は「強固な殺意に基づく危険な犯行」としながらも、「長男からの暴行に恐怖を感じた背景は考慮すべき」と述べ、検察が求刑していた懲役8年よりは軽い刑とした。  この父親は東大を出て官僚になり、農水省の事務次官まで上り詰めた。母親の親族には医師も多いという。長男も進学校として知られる私立中学に進んだが、父親ほどの優等生ではない。発達障害という診断を受けていたとされるが、大学に進学して卒業しているので、それほど重とくな状態ではなかったと考えられる。  これほどのエリート家系に生まれなければ、それなりに就職して独立できたかもしれない。しかし、長男は定職に就くこともなく、イラストで身を立てようとして挫折。ゲームにのめり込み、親が用意したマンションから出る機会も少なくなった。

「お父さんはいいよね」と彼は言った

 裁判では、’19年5月、マンションから実家に生活の拠点を移した翌日、長男がこう言って泣きだしたことが明らかになった。 「お父さんはいいよね。何でも人生、自由になって。(自分の)44年の人生は何だったんだ」  そしてそのあと父親に暴力を振るい、結局はそれが6月1日の殺害につながったのだ。  もちろん、実家から手厚い世話を受けながら仕事に就こうと努力することもなく、逆に親の優秀さを恨んで暴れるなど、とても許されたことではない。しかし、エリートの家に生まれたがゆえに、“そこそこの人生”では満足できず、周囲からの視線にも冷たさを感じて次第に被害者意識を強める息子や娘は、実は少なくない。  客観的には「恵まれた子のワガママ」でしかないのだが、本人にとってはまさに「自分の人生は何だったんだ」と叫びたいほど苦しく、自分や他人を傷つけたくなる衝動にかられたり、ドラッグなどにおぼれたりするケースを数多く見てきた。
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自己不全感から荒れ狂う子を持つ親の苦しみ
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